山桜で作られた掘りごたつがあるとうかがい、見に行きました。重厚な天板が一体となったしっかりした櫓で、珍しい長方形でした。畳1枚分の大きさの立派な掘りごたつです。往年はここに大家族が集まって暖をとっていたのでしょう、天板の裏側は一部炭化しているところもあります。

工房に引き取った時の写真です。天板が一体となった大きくて重い櫓です。実家で譲り受け、足元の横架材を気にしながらも、和机として和室で使われてきたそうです。

この天板を活かして、日本間に置く和机と板の間に移動してダイニングテーブルにもできる脚交換式のテーブルにリメイクをすることになりました。

外周材は山桜、天板は楢材でできています。いずれも堅木ですが、長い間に収縮して接合部に隙間ができています。これを直していきます。

木材は樹種に関わらず、木目方向にはあまり縮まず、木目を横断する方向にはより多く縮んでしまいます。夏場の成長の早かった時期に育った部分は繊維が荒くて水気も多く含み、長い間に乾燥が進むと木目の縦横で収縮の違いになって現れてきます。この性質さえ知っていれば、全ての接合部の隙間ができるメカニズムが理解できます、そうすればおのずと正しい補修方法がわかってくるのです。

ここにこういう隙間ができたのはなぜか、木目の方向(縮む方向)を観察しながら考えます。
天板の隙間はどうしてできたか一番わかりやすいです、天板の楢材が横方向に使われているのに山桜の外周材は常に外周と並行の木目になっています。楢材が縮むのに桜材が縮まない、だから楢材の接合部にその差が隙間となって表れるのです。
天板が落ち込まないよう裏側で支えている桟が外れかかっています。ケンドン式に差し込んで固定する仕組みなので、元々ホゾのかかりが浅いのも原因の一つですが、外枠と桟、いずれも素材が同じで、木目が同じ方向になっていても、そこに差が生じているのは、材の断面積の違いにより細いものほど収縮が早く進むからです。
完全に外れています。これが表からは表面板が頼りない印象になって感じられるのです。これが「体重をかけてみるとグラグラだ」の原因です。さらに、よく見ると横桟は天板に掘られた溝にはまっている構造です。隙間を無くすことでホゾのかかりを復元すればかなりしっかりした感触が蘇るはずです。
昔の掘りごたつでは「炭火や熾火」を熱源にしていました、そのため昇ってくる熱が直撃する天板の裏側は長い間には炭化してしまいます。これによって素材自体の強度が落ちているのは確かですが、厚さが15mmほどもあるので表側には何の影響も出ていません。直せばまだまだ使えます。
細部の観察と対策を検討し終わったら、いよいよ解体です。
まず脚部を外しにかかります、柔らかい針葉樹材で作った楔が活躍します。楔材は一度使うと割れて使い物にならなくなりますが、部材を痛めることなく分解するにはこの方法が最良です。
接着剤には膠が使われているはずですが、楔を少しづつ叩いていくとと最後にはホゾが綺麗に抜けます。
外周に差し込まれたホゾは強固に(たぶん隠し楔が仕込まれていて)接合されていて、外すことができませんでした。仕方なくホゾの付け根を鋸で切断しました。
分解が進みます。どのように作られているか推理が正しければ、ほとんどの場合問題なく分解できます。
分解が終わり、再活用する天板の姿になりました。ここから緩んでいる接合部の引き締めに入っていきます。
この写真に木目方向による縮み具合の違いが隙間を生じさせている様子が良く写っています。外周材と天板の間隔は一定のはずなのに縦方向だけ間隔が開いています。外周の角は45°の角度で刻まれているはずなのですが、乾燥が進んでこの角度が鋭角に変わってしまい、先端の方だけ競り合ってしまい、その結果として楢材側に隙間ができているのです。また、この角の木組みはホゾをはめ込まれた後、緩みを防止するための木製のピンが撃ち込まれています、先端が競っているのにこのピンが頑張っているため無理な力がかかり、外周材に割れも生じています。

上の写真と別アングルの写真です。どこを削れば良いか一目瞭然ですね
競っているいる個所を削り落とせばいいのです。隙間が平行になるよう罫書ます。
金尺とカッターで切り込みを入れ、
彫刻刀で削り落としていきます。
乾燥しきった桜材はホントに硬いです。少しづつ彫り進みます。
カッターはホントに便利な刃物です。こんな風に先端が欠けたら折りさえすれば切れ味が戻るのですから。
互いに競っていた個所を削り終わりました。あと3個所同じことを繰り返します。
接着剤を差し込み、いよいよ再接着です。
裏返して桟のホゾを所定の位置に誘導し、
ポニークランプで締め付けます。
はみ出てきた接着剤は拭き取っておきます。
表に返して余分な接着剤をきれいに拭き取り、完全に硬化するまで養生しておきます。
次にわずかに残る天板の隙間を薄いかまぼこ型の木片を削り出して裏打ちします。
色合わせをして
借り釘で固定します。ちなみに金槌の扱いはこの借り釘打ちで鍛えられました。とにかく曲がりやすい細い釘なのです、特にこんな堅木が相手の場合は。
天板の外周をエポキシパテを埋めます。まず周囲をマスキングテープで養生し、
ヘラを使って押し込みます
パテの埋め込み終了です。
天板はワトコオイルで仕上げていきます。今回は山桜の木目を活かしてワコトオイルのチェリーを選択しました。
しっとりした無垢の木ならではの色と手触りに仕上がりました。
使い込むと更にしっとりとした艶が出てきます。オイル仕上げは玄人好みの木好きにはたまらない感触をもたらす、無垢の木にお勧めの仕上方法です。
専門の職人さんに頼んでいた足が8本届きました。取り付け金具の仮組を兼ねて8本並べて板材に立てます。
和机用の短いもの4本、ダイニングテーブルにした時に使う長いもの4本、いずれも無垢の木から削り出したしっかりした脚です。
脚を色合わせしていきます。まずはワコトオイルを刷り込み色付けしていきます。
艶引きするとこんな感じです、木のうねりが強く出で、ムラになっているようにも見えますが、
この作業を4回ほど繰り返すと天板とほぼ同じ色味に仕上がりました。
天板の四隅に取り付け金具を付けます。
わずかにテーパーのかかった脚をつけて
表に返すと、和机の完成です。
テーパーのかかった脚はスマートでいて味のある和のテイストです。長い脚に交換すればダイニングテーブルにもなります
仕上がった天板の様子です。山桜と楢の樹種の違いがありますが、
これから数10年かけてもっと馴染んできます
細かな傷はこの天板に刻まれた歴史です。

細かな傷にはあえて手を加えず仕上げました、これから更に歴史が刻まれていくことと思います。