大正期から昭和初期に作られた洋風の三面鏡を修理したいとのご依頼がありました。下見にうかがうと左右に収納があり、中央に全身が映る大きな鏡を備えた三面鏡でした。この鏡は、外交官だった先々代が出世と引き換えに奥さんに迎えられた、とても美しい方が愛用されていた家具だとのこと。ところが、以前修理をしたところ、残念なこと美しい木目が全て塗りつぶされてしまい、なんとか元の木目の映える状態に復元できないかとのご依頼でした。大河ドラマのようなお話を伺い、どんなも木目が出てくるか見てみたい思いになり、難しい仕事にチャレンジすることになりました。

工房に持ち込み分解した状態です。真ん中の鏡が大きく左右の鏡の4倍ほどあります

工房でよく観察すると、オリジナルの材質は南洋材、紫檀のような広葉樹の堅木です。当時日本は南洋に拠点があり今では貴重で手に入りづらい南洋材が多く入っていたようです。

課題となった塗装の剥離方法について、少し詳しくご紹介します。(ご紹介する個所の左右の壁面は既に剥離が終わっています)

この厚く塗られた焦げ茶色の塗料を一旦全て剥がしました。
今回塗装を剥がすのに剥離剤を使用しました。以前一回使ったことがあり、良い結果だったのでまたそのメーカーの薬剤を使いました。まずペンティングナイフで薬剤をのせます。この溶剤は粘度が高くこうした使い方に便利です
このように多めに塗り拡げてしてしばらくすると
塗料が膨れて浮いてきます
そのタイミングを見計らって金属のヘラで一気に剥がします
木目に沿った気道の凹みに残りはしますが、ざっと剥がすとこんな感じにまでなります
次にサンドペーパーでさらに落としていきます
こんな感じで剥がし終わりました
これを全体にわたって行い、本体全てを剥がし終わったところです

この目の詰まった緻密な木目が、復元を待っていたものです。

緻密で美しい木目です。この家具の由来に重ねると、ロマンチックな思いが浮かびます。

ちなみにこの左右に渡してクランプ止めした仮桟が今回の最大の工夫です。鏡の外された状態では左右の収納は下の桟だけで繋がれてい て強度がありません。塗装のために動かす時や納品の時、この仮桟は手でしっかり保持することもできて、とても有効でした。

完成しました。納品場所で組み立てたところです。
落ち着いた色調の中に木目が息づいています。