イクスシーは、カッシーナ(世界的に有名な家具ブランド)の日本販売代理店。今回ご依頼された椅子は、イクスシーによる独自ブランドです。

座面の革があちこちで切れていて座ることのできない状態でやってきました。
アクリルの平織テープに張り替えして修理しました。

元々の座面は、焦げ茶色の革テープ張りでしたが、材料費と仕上がりのイメージを相談し、黒のアクリルテープに交換しました。むしろオリジナルよりもキリっと引き締まった見た目になり、ご満足いただける仕上がりになりました。では、その修理作業の経過を詳しくご紹介します。

座面の裏側です。革が乾燥しきって手で簡単に引きちぎることができるほど脆くなっていました。これでは人の体重を支えることはできず、1か所切れれば次から次へと切れてしまいます。

実はこの椅子を手掛ける直前に、色違いの同じ椅子を修理しました。その経験もありわかってはいたのですが、革テープの端を固定しているステープルを外すことが大変でした。革テープの端は、4mm幅のステープルが2本打ち込まれているのですが、場所が溝の底にあって工具が入らないのです。さらに、この椅子に使われている木が粘りのある強い木で、打ち込まれたステープルをしっかり固持していて抜くことができないのです。いろいろ試してみて、革を取り去るとできる僅かな隙間にニッパーの先を押し込み、ステープルの頭を切断することで対処しています。そのために、溝底で都合よく作業できるようニッパーの先端形状を削り出した専用工具を自作しましたが。

革テープを全て取り外し、まず木製フレーム全てをクリーニングします。
椅子の下にあったメーカーのプレートです。イクスシー イースト・バイ・イーストウエストと読めます。
木部の当たり傷をタッチアップしてコーティングして仕上げました。木地が白いので小さな傷が目立ちましたが、全て綺麗に直り、シンプルで洗練された形状が際立ちます。
アクリルテープを切り出します。4脚で44m必要で、50m巻き1巻きを使い切りました。
座面を編み上げて張ります。
テンションもしっかりかかっていて、クッション性があり座り心地も良好です。
4脚全て完成です。

カッシーナはイタリア家具の有名ブランドで、その品質と値段は世界最高峰です。特に革に関しては本当に良いモノを使っていて、イタリアの伝統的な鞣し技術の粋が惜しみなく投入されています。ですが今回手がけた関連会社イクスシーの革は残念ながら、こうしたブランドのイメージからは程遠いモノでした。

革は天然ものなので、用途に見合った品質を見分け手に入れるには相応の経験が必要です。また良い革は価格も高く、色や質感、強度などの品質も安定していません。今回張替えに使ったアクリルテープは、カバンの持ち手などに使われる厚さ2mm、20mm幅のモノです。工業生産品なので品質も安定していますし、価格も革とは比べ物にならないほど廉価です。

今回たまたま同じ椅子の修理依頼が続きましたが、たぶん製造年が近く、経年の劣化が同じように進んでいるため同じ時期にご依頼に至ったものと思います。同じような椅子のお悩みをお抱えでしたらご連絡ください。