ブックケースのリメイクと修理のご依頼をいただきました。

高さを40mm程切り詰め、ペットの齧り跡を修理し、欠損した真鍮製の鍵を直したい。との内容でした。

加工前の写真です。右側の扉に鍵を挿し、それの鍵を持って開閉する仕様ですが、鍵が折れてしまっていてスムーズな開閉ができません。
完成写真です。高さを切り詰め。真鍮製のカギを交換し、鍵穴カバーをつけています。
まず脚を切り詰めました。デザイン的にも違和感はないのでこのまま塗装して仕上げていきます。
ペットの噛み跡が一直線に一つの部材に連続しているので。このパーツ全体を木で整形し再生します。
他の塗装の傷もタッチアップし、全体をコーティングして艶合わせして仕上げます。
ペットの噛み跡があった場所の接写です。飾りぶちが再生し色と艶が整うと見違えるように蘇ります。
次に外したガラス扉の修繕に入ります。

真鍮の鍵は、鍵本体ごと交換することにして、パーツ手配に入ったのですが、日本では真鍮製の鍵パーツはもう作られていなく、海外から販売代理店を通して輸入することになりました。当然時間もかかり、製造元の提示した納期まで待つしかありません。急遽ご依頼主に了解いただき2カ月ほどこの作業はストップしました。

やっと入荷した鍵を合わせてみます。やはり一回り大きく、扉枠に加工が必要です。
オリジナルの鍵本体の外形はかまぼこ型だったようですが、新しい鍵本体は長方形です。干渉する部分を鑿で削り落とします。
加工が終わりました。隙間から木地が見えるのを嫌い、着色しています。
ガラス扉の木枠を塗装して仕上げます。まずガラス面を養生して作業します。

このガラス扉の細かなガラス枠は骨組みが全て木製で、特殊な形のガラスは全てクジラの油で固定してありました。現在ならシリコンを打つところなのですが、特に傷んだところはなく、とても良い状態でしたので、それはクリーニングするだけにして、主に木枠の経年で褪せた色と艶を復元しました。

次に鍵穴のカバーを取り付けます。干渉する廻り縁を削り落とし、切り口を着色して、
鍵穴カバーを取り付けます。鍵を持って引っ張って空けるので、ここにはそれなりの力がかかります。ですから、このカバーは単なる飾りだけではなく、機能的にも必要なものなのです。
鍵をさしてみます。この鍵をねじって鍵を開け、そのまま引いて扉を開きます。付けてみるとなかなか味のある質感の、いい形のカギだと感心します。

このブックケースは、いわゆるアンティークにあたる家具だと思います。特にガラスがクジラの油で固定されているなど、今ではあまり見かけないディテールがそこかしこにありました。それだけに貴重なモノだと思います。

提案した「鍵パーツが入手されるまで待つ」との施主のご判断で、この貴重なブックケースに本来の機能と輝きを復活させることができました。この鍵パーツは間違いなく手作りです、一つ一つ人の手でモノを作る。日本にもこのような本来のモノつくりに必要な時間を割くことのできる時代があった。かつて可能だったことを再び取り戻すには、やはりこのところの経済効率のみの追求を反省し、そのことによって失われたことに目を向け、改めてそこに失われた価値を見出す必要がある。と痛感しました。それはたぶん純粋に作ることへの喜びなのではないかと思います。