ご依頼いただいたのは大正期の茶箪笥です。扉の開閉部が外れて開け閉めできないとの事でした。

たぶん桑材の木目を活かした100年前の茶箪笥です。
桑はとても趣のある表情を見せる木材で、独特のうねるような立体的な木目が特長です。
細かく見てみると、引き出しの前板が釘で打ち付けられていたり
天板が反って角が浮いていたり、
家具の専門ではない手があちらこちらに入った跡があります。この切り欠きからは金属製の丁番をつけて開け閉めしていた時期もあったことがわかります。

いずれにしても、この100年の間に何度が手が入っているのは明白です。今回写真は撮れていないのですが、引き出しの前板の釘の処置、引き出しの摺動の調整、蝶番を取り付けるために欠きとられた個所の復元など、細かな作業を実施しました。

ここでは今回特に印象的だった扉の開閉の軸の作りについて詳しく紹介します。

オリジナルの開閉軸はここにある丸い穴に扉に取り付けられた丸棒の突起を差し込み、成立していたものと推測できます。
というのはこの穴の真上にこんな加工がされているからです。

ここでは、丸棒と四角いクサビで試していますが、扉に付けられた上下の丸棒がこの楔の打たれた溝を通って丸い穴に入り、その後で楔を打ち込んで固定していたものとしか考えられないからです。

当然オリジナルの木による造作に倣い、堅木でこの構造を復元することにしました。

ちなみに反対側も同様の細工がされています。ここにはオリジナルの楔が残っています。
浮いた天板を一旦外します。明らかに膠による接着なので、水気を与えつつアイロンで温めて少しづつ剥がしていきます。
ある程度剥がれたら、ヘラを差し込み剥がします。
最後は周囲全体から木の楔を打ち込んで剥がしました。
綺麗に剥がせました。

驚いたことに内部にも仕上がった天板がありました。想像するにこのちゃぶ台の上に、ある程度の重さのモノ例えば鉄瓶などを置いておけるように、厚みのある板で覆う改造が過去のどこかのタイミングで施されていたということではないでしょうか。

反りを解消するため再接着して加圧しておきます。

この後塗装で仕上げています。

残念なのことに、以降の作業の詳細な写真は撮っていませんでした。中でも扉のフランス落としの機能を山桜の木片を削り出して設計した細工をご紹介できなくて残念です。