完成写真:木の風合いを復元しました。

復元前の写真:板材が上にのってしまっていますが、テーブルは半透明黄色のウレタン塗装で仕上げられていました。確かに傷も汚れもかない強い塗膜ですが、塗りつぶされてしまった木目と木の風合いを復元してほしいというご依頼でした

15年以上我慢して使い続けてきたダイニングセットの木の風合いを元に戻して欲しいというご依頼をいただきました。実物を拝見したところ、ウレタンの着色塗装がされていました。「木の風合いと木目の美しさに惹かれて買ったのに、こんな塗装をされてしまったという不満を感じつつ、長年我慢して使い続けてきた」ということでした。「なんとか実用性を保ちながら木の風合いを楽しむことはできないか」とのご相談でした。作業時間はかかりますが、一旦すべての塗料を剥がし、改めてオイル仕上げをすることを提案したところ、これが採用されました。
また椅子もフレームの接合部に隙間ができていて、座るとぐらぐらする状態でした。この際椅子の緩みも直して、テーブルと一緒にオイル仕上げにし、座面の生地も張り替えたいという追加のご依頼をいただきました。

まず最初に手がけたのはオイル仕上げの代替テーブルを用意することでした。これを実際に使っていただき、オイル仕上げが実用上問題がないかご確認いいただきました。長くお待たせするのですから、その間に同じ仕上げのテーブルを試していただいくことにしたのです。

代替のダイニングセットを持ち込んで設置し、数か月じっくり作業させていただける体制を整え、いよいよダイニングセットを引き取ってきました。
以下、実質作業に3カ月以上かかった復元作業の経過です。

■テーブルの復元■

剥がした塗料です。専用の薬剤とスクレーパーを使った根気のいる作業でした。

無垢の木の家具は、こんなこともできるのです。蘇った木の風合いはほんとに素晴らしいです。

テーブルの作業写真はほとんど残っていません。一般にウレタン塗装は剥がせないと言われることが多いですが、極端に言えば下地の木が露出するまで削ればいいわけで、不可能なことではありません。無垢の木でできた家具なら、専用の工具と薬剤を使えばほとんど木を傷めずにきれいに剥がせます。むしろこの作業には恐ろしく手間がかかるので、量を一度にこなすことで収益を上げる作業所の体質にそぐわず、不可能だといって断っているのです。下から現れた美しい木目のこの写真をメールしたところとても喜んでいただけました。

■椅子の復元■

まず座面を外します

逆さにして接合部の不具合を観察します

緩みのひどいところです

こんなに緩んでいるとぐらぐらして当たり前です。

過去に緩みを直した後がありました。木ビスで締め上げてゆるみを止める加工をしたようです。

この椅子の接合部は直角ではないのでこのようにビスを打っても引き寄せる力が不足して引き締めたことになっていません

2本打ったところで緩みが止まるものではありません。

唯一効いていたビスはホゾの方向に引き締める向きに打ったビスでした

脚の小口に打ったビスは足を割ってしまっています

過去に壊れた時の部材がとってありました。

ダボでつながっていることがわかりました。

補強の部材を外します、

ビスを外すと外れました

ビスで止めただけで、接着されていなかったのです。これでは補強になっていません

接着面の平面を出し直します。

塗装を剥がします

これも根気のいる作業でした

補強のビスを打ちました。表から打ったので、ビスの頭を埋め込んで木栓でふさぎました。

木栓を打ったところです。この後切って削り出します。

削り出す前はこんな感じです

オリジナルにはなかった補強の桟を追加して、過去に壊れた個所の強度を上げました

次に椅子の張り替えです。まず裏地を外し

生地を剥がします

下地の確認です。

新しい生地に張り替えました

組み立てて完成です

今回は実質作業に3カ月かかる大仕事でした。複数サンプルを取り寄せて生地を選んでいただいたり、フレームの補強方法のご了解をいただいたり、ご依頼者さまのご理解とご協力をいただいたことで、なんとか所期の目的を達成することができました。なによりご依頼者さまと「ぶれることのない価値観」を共有できたことが良い仕事につながりまた。

ちなみに、代替家具や輸送費や材料代を含む、全ての費用の合計は24万円ほどになりました、ご参考まで。