ネオ専用バックの制作は、ウェットフォーミング用の木型づくりから始めました。

端材を寄せ集め、接着して木型制作のブロックを作ります。
一日養生して、完全に固まったブロックから木型を削り出します。

大きな面で大まかな形を切り出します。新しい面を切り出す度に、センターラインを引き直して常に断面形状が左右対称になるよう意識して進めるのがコツです。

次にダウンチューブの断面形状をダンボールの切れ端に写し取ります。

写し取った断面の形状を木型の端部に反映させます。

三次曲面の木型が完成しました。

フレームの中に収めてみて様子を見ます。

楔で前の方に押し付けると嵌って動きません。これならネオにしっかり固定できるバックになりそうです。

さて、この木型を使っていよいよ革の加工に入ります。

水で濡らしたベジタブルタンニンの革を引っ張りながら木型に張ります。端部の凹んだこのかたちがこのデザインのミソです。この凹みが上下でフレームに嵌って固定されるのです。

この革の成型方法は、靴のつま先の作り方の応用です。

上から二枚目の革を銀面を外側にして貼ります。一枚目同様、引っ張りながら小釘で仮止めして形になじまませていきます。二枚の革の間には接着剤を塗り拡げてあります。今回は水で溶いた木工ボンドを使いました。ゆっくり乾くので作業する時間が稼げます。

次も同じウェットフォーミングで、バッテリーの凸部をはめ込むパートを作ります。

水に浸してベジタブルタンニンの革を柔らかくします。

むしろこちらの制作工程の方が、一般的なウェットフォーミングのやり方です。湿った革を事前に作っておいた雄型と雌型の間に挟んで整形します。

まず雄型にガンタッカーで仮止めしておいて、
雌型で挟んで、クランプでがっちり締め上げ、一晩このままにしておきます。
型から取り外した革は、指で弾くとコンコンと鳴るくらい硬くなり、形をしっかり維持します。錐を使って、手縫い針を通す穴を開けます。革は固く引き締まってはいますが、道具類の加工にとても素直に従います、例えば錐を押し込むと、小気味よくサクサク穴があきます。革の持つ、切ったり削ったり穴を空けたりする造形加工への素直な応答性と、加工時に味わえる手ごたえの良さがレザークラフトを楽しくさせる大きな要因です。
空けた穴に針と糸を通し、手縫いで縫い上げます
縫いおわると、表側はこんな感じになります。この凹みに自転車側のバッテリーの凸部が入り込みます。

バックの基本的な作り方は、バックの各面ごとに作り、最後に縫合して組み立てるのが一般的な方法です。必要な開口部や引手、ポケットなどの加工が、平面の方がやりやすいので、このような手順になるのですが、全体の作業手順をよく考えて進めることで、直接見ることのできない袋状の内部に手を突っ込み、手探りで縫合するような、やりずらい仕事を極力減らすことが出来ます。このバックもこの基本に沿って、面ごとに作っていきます。

このダウンチューブに接する面は、内側にスポンジのクッション材を敷き詰めます。

このバックの中には、スマホやメガネなどを入れる予定なので、必ず緩衝材がなくてはなりません。今回は以前椅子の座面に使った、ウレタンスポンジの端材を使います。円筒形に成型するのために、カッターで平行な溝を6本掘りました

ウレタンスポンジに掘った溝の接写です。深く掘りすぎて切断してしまわないよう、カッターの刃を傾け、V字型に切り込みを入れて溝を掘りました。
直径が合致すれば、どんなものでも構わないので、筒状のものの上で接着することで、円筒形に整形できます。今回は椅子張り生地のロールを利用し、その上に接着剤を塗った革をテープで仮止めします。
次に、溝を下にしてウレタンスポンジを接着します。
最後にその上に端材の布を貼り付け、内張りにします。ちょっと手間ですが、内張りでカバーしてあればバックの中でモノが当たったり擦れたりしても、ウレタンスポンジがボソボソとれてくることはありません。
他の面も順次作っていきます。これはトップチューブに接する面です。蓋から出し入れできないような大きくて平たいモノは、ここから出し入れします。開口部には防水ファスナーを取り付けてあります。
ファスナーの引手の金具がトップチューブに直接当たって、擦れて傷にならないようファスナーの取っ手をカバーするパーツも縫い付けました。
次いで、蓋つきの開口部の制作に入ります。ここについては製作開始段階では方針が決まっていなかったのですが、
この部分の詳細スケッチを描き、最終的な方針を決めました。

蓋を開いた状態で保持するパーツです、蓋の内側、左右に一つずつ付きます。

革の小口と床面はトコヌールを塗り広げ、ガラス瓶の小口で磨いて処理してあります。

蓋の裏側に取り付ける内ポケットを作ります。
開口部の蓋です。

このようにして準備した開口部のパーツを所定の位置に組付け、jcraftのマークをステンシルし、三次曲面に成型した面と、手縫いで繋いだその間の工程は省略します。その間の様子を紹介しても、一般的なレザークラフトのハウツーものとありまり代り映えのないものになってしまいますし、この稿はオリジナルのモノつくりの考え方と、それを実現させるための工夫に焦点を当てたいと考えているからです。

縫合は場所によってはミシンを使ったり、手縫いだったり、いろんな技を駆使しています。ちなみに、レザークラフトは独学で習得しました。レザークラフトの技術は、ebayで海外の道具を手に入れたりしながら鞄やペンケース、小銭入れや靴などいろんなものを作ることで、自然と身に着いたものなのですが、常にクラフトを楽しむことが上達への近道です。手縫いの時などは同じ作業を延々と繰り返すことになりますが、楽しいと感じられれば延々と続けることが出来ます。また、楽しくさえあれば、失敗すらも新しい技術習得のチャンスになってしまいます。気が付けば、失敗したときのリカバーの方法が何通りも思いつくようになっています。興味が尽きないので、同じ成果が上がる異なる方法を、何通りも試してきました、その結果、自然に合理的なやり方や手順が身につきます。

シートチューブ側の三次曲面の内側です。残りの2面との接合する時都合の良い様に、曲面の左右の端部は、余長が残してあります。というかこの段階ではどのようにしてつなぐか、実は決まっていなかったのですが。
全体の形がほぼ完成しました。
この後で、取っ手を付ければ完成です。
完成しました。蓋つきの開口部側です。自転車に取り付けた時開口部が右側になるようにしてあります。
手前の部分が、手持ちバックの時には持ち手で、自転車に付けるときにはヘッドチューブに固定するベルトになります。このベルトは面ファスナーで強固に固定できます。
裏側には、キャノンデールとクイックネオの文字をステンシルしました。上の面にはファスナーが付けてあります。このファスナーを開ければA4サイズの平面的なものを出し入れできるのですが、このファスナーを開閉するには、自転車からバックを取り外さないとなりません。出来上がってみるとほとんどこのファスナーを開け閉めすることはなさそうです。ですがこれがあったおかげて最終縫合できた個所が複数ありました。
曲面のサイドです。手持ち鞄にした時には底になります。
ポケット付きの蓋を開けると更にその奥に収納スペースがあります。ダウンチューブに接する底の部分には前出の通り、内張りの向こう側に3センチ厚の緩衝材が入れてあります。このバックには、計画通りA5サイズの手帳やノートが収納できます。またこのバック、どのくらいの容量かというと、後日八百屋さんにネオで出かけていき、一袋いくらで売っていた紅玉を買ってバックに移し替えたところ、8個入りました。
以前ご紹介したスケッチにあった、革紐とボタンの組み合わせの蓋の留め具です。見た目はとてもシンプルなものですが、バックの内容量によって紐の長さで調節できるところが便利です。バックの中がモノがいっぱいになると内側のポケットの厚さ分、外側に突出しますが、そうなってもしっかり蓋を閉められます。逆にバックの中が空であれば、平らな状態で蓋を閉めておけます。蓋の開閉は、革紐の先に付けた握りをつまんで、ボタンの周りを数回廻すだけですから、自転車を漕ぎながら手探りでポケットのモノを取り出すことが出来ます。

完成したバックを自転車に取り付けたところです。

構想してから2カ月くらいかかりましたが、かなり満足できる仕上がりです。
自転車への脱着は、マジックテープを仕込んだベルト1本だけでできます。ベルトをDリングに通して折り返し、ヘッドチューブに引き寄せるようにして、引っ張りながら留めるので、流石にワンタッチとまではいきませんが、いったん留めるとバック全体がフレームに固定され、自転車を漕いでいても、バックがぐらついたり、ぶらぶらすることは全くありません。また自転車から外して、手持ちバックとして使う時にはこのベルトがそのまま持ち手になります。
ちなみに一緒に写っているハンドルカバーは、あまりの寒さにネットで注文したもので、見た目はあまりカッコよくないですが、素手で漕ぎだしても、真冬でも手が汗ばんでくるくらい暖かく、手触りだけでシフトレバーやスイッチを操作でき、とても便利です。

このバック、素材にはイタリアンレザーを奮発したので結構な投資になりました。ですが、機能的には細部に至るまで申し分なく、見た目にもブルックスのサドルの質感とよくマッチしていて、投資を上回る仕上がりになりました。