ダイニングセットの修理を依頼されました。最近のダイニングセットは大型化していて買い換えようにもちょうどよいサイズのものがなく、長年使ってきて愛着もあるので直してほしいとのご依頼でした。まず椅子の修理からご紹介します。この椅子の背もたれは籐編みです。目の細かいタイプで編み込むのに手間のかかる、比較的高価な部材が使われています。ご依頼いただいてまず背もたれの籐編みの手配からこの仕事は始まりました。

工房に引き上げてきた状態です
まずざっとクリーニングして各所を子細に調べます
ホゾのゆるみ、これはしっかり再接続する必要があります
背もたれの籐編みの破れ、これは交換します。
足先のフェルト貼り。サイズが合っていないので、埃が付き放題になっています。
まずフェルトを剥がし
座面を取り外します
座面を取り外した状態です
外した座面です
ホゾ部分の再接合をします
組付けた後に抜け防止に釘が打ってありました。
もしかしたら一度修理の手が入っているかもしれません。このようなホゾの補強はオリジナルでは見たことがありません
釘でホゾが割れてしまい、一時しのぎの補強にしかならないからです
接合部をクリーニングし
接着剤をしっかり入れて
組み直します
クランプで締め上げて、余分な接着剤が出てくるくらいでないとしっかりした接着とはなりません
余分な接着剤を拭き取り、クランプで締め上げたまま24時間以上養生しておきます
使用しているポニークランプは、締め付け力の強い優れものです。家具修理に使われ続けた長い歴史がその良さの証です。
座面を張り直す準備です
まず下張りを剥がすと座面張りのステープルが露出します
これを一本一本引き抜いていきます。
座面の張り生地が外れました。この外した生地をよりどころにひと廻り大きな型紙を作っておきます。
作業中に気づいたホゾの緩みを接着してクランプで締め上げています。
注文しておいた籐編みが届きました
梱包を解くと
オリジナルと全く同じピッチで編まれた籐編みが出てきました。
次に背張りの取り外しにかかります。
まずカッターで溝に押し込まれた籐芯とフレームの間に切り込みを入れていきます。本来この部分の接着で背編みは固定されています。
外周の刃入れが終わったら座面に切り込みを入れ
溝の籐芯を引きはがしていきます。
実はここで恐れていた事態に直面しました。
溝の底にステープルが打ってあるのです。溝の底に打ち込まれたステープルは、通常の方法では引き抜くことが不可能です。
そこでいろいろ思案し、こんなものを作りました
左記の細いラジオペンチの先にステープルの背の部分をひっかける溝を付け
この手製のくぎ抜き様の道具でペンチごと上に引き抜いてしまおうという工夫です。
こんな使い方です。まずラジオペンチの先でステープルの横になった頭の部分を挟み
てこの力で引き抜く。 実際にはこの後で、ラジオペンチが滑ってしまわないように、引き抜きの時に引っかかる出っ張りを追加加工付しています。
苦労の末、方法を確立し、古い背編みを全て取り外しました。
溝をクリーニングし
塗装も剥がして、接着効果を高める下地処理が終了です。
次に背編みを切り出す型板を作ります
新しい背編みを切り出し、水につけて膨張させます。
それを背に貼り込みます。接着剤を流し込み。心材を溝に叩き込んで籐編みをしっかり固定します。
余分な部分を切り落とし
背張り作業が完了です
乾燥させると伸びていた籐編み材が縮まり、ピンと張ります。
これを全ての椅子で繰り返します。
ついで座面の交換に入ります。
型紙で新しい座面材を切り出し
座面に張っていきます
ステープラーで生地を伸ばしつつ、角の曲面には慎重に形になじむよう張っていきます
貼り終わったら余分な生地を切り落とし
裏地を貼って完成です
これを繰り返します。
次に新しい背編みとフレームの色合わせをします。
同時にフレーム各所の表面的な不具合も直します。ひじ掛けの固定ビスの頭を隠す部材が欠損していました。これを新規に作って直し、
ひじ掛けの傷んだ塗装を削り落として
塗装して艶を合わせ仕上げていきます
ひじ掛けの優美な局面が美しい木目とともに蘇りました。
あとは座面を組み付けるだけです
座面を貼り直した部材を再固定し
脚の底に
外周より実感小さく切り出した硬質フェルトを貼って仕上げます
この作業を繰り返し、完成です。
座面の緑が映えています。この色番号をご依頼者に決めていただくのに、サンプルを3回取り寄せました。
ご要望通りの仕上がりです。
背もたれも張り直しまた、これからまた10年以上使える状態に仕上がりました
ひじ掛けも木目が綺麗で、手触りもさらっとした快適な仕上がりです。