根元から脚の折れてしまった椅子の修理を依頼されました。ホゾの部分だけ復元しても強度不足です。

そこで、脚一本をまるまる作って差し替えることにしました。これまでの事例紹介になかったパターンです。その過程を詳しくご覧ください。

奥の椅子の脚が根元から折れて外れています。
無垢の木でできた座面に足のホゾを貫通させ、クサビでしっかり保持する構造です。
ホゾの真ん中で折れて、半分はホゾ穴の中に残っています。
足の付け根だけで、必要な強度を持たせなくてはなりません。ホゾの復元だけでは強度不足です。
よく乾燥したオリジナルと同じ木を手に入れ、脚をまるまる一本新たに削り出すことにしました。
外れた脚を見ながら、形を削り出しました。ご覧いただくとわかりますが、ホゾの付け根でかなりの角度がついています。
ホゾのかたちもオリジナルの機械加工に合わせて長円形です。NC工作機に挑戦されているつもりで形の移植に取り組みました。
ホゾに仮組しています。最後の調整はやすりで少しづつ削り、ぴったりと隙間なく合わせます。
最後に楔の入る溝を切ります。
溝が切れました。木目の方向と角度がついてしまっていることお分かりだと思います。これでは強い力がかかると木目方向に割れてしまいます。これはオリジナルの改善すべき点です。
砥の粉で目止めしています。この後着色剤で色合わせ、中塗り、仕上げ塗りを施します。
次にグラグラする背もたれの引き締めにかかります。カバーを外してみると・・・
背もたれの板材(合板の曲げたモノ)の左右が座面を貫通しています。そこに太いダボを差し込んであります。
内側のダボをクサビに変えて叩き込み、引き締め、クランプで圧着しました。
ダボで接続された背もたれ上端の部材も緩んでいたので同時にクランプで圧着しました。

今回、修理していて、オリジナルを改良すべき点が2点あることに気が付きました。まず脚のホゾはあくまで木目を通す方向で作られるべきで、角度をつけるなら座面の貫通孔の方にすべきです。次に背もたれの付け根はクサビで固定すべきでダボでは経年乾燥後、緩んでしまいます。この椅子は作られてから10年近く使い続けられているので、もう制作者へのフィードバックはできないことかもしれません。ですが、私が気にかかるのは、この2点に共通している考え方です。いずれもNC工作機を安易に使う都合が優先されているとしか思えないのです。手作りだったらこんな不合理なことはしないし、できないのですが、機械ならできてしまうのです。便利で強力な加工機械が使える今、専門家としての見識と知識はより厳格に適用されなければならないと思うのです。

足の接合です。ホゾ接合した後、楔を打ち込んで強固に接合します。
接着剤が接合部に回りきり、あふれてくる理想的な接合です。この後、不要な部分をカットして仕上げます。
完成した状態です。どの脚を再生したのかわからないレベルの仕上がりです。
実はこの左側の脚が再生したものです。
完成しました。