輸入チェストの修理をしました。これだけ奥行きのあるチェストは、国産では見当たらず、修理して使い続けたいというご要望です。引き出しの動きが渋く、引き出しの表面にも割れがあるので合わせて直してほしいとのご依頼でした。

引き出しの奥行き60センチ近くあり、これだけのサイズのモノが国産では見当たらないので修理して使い続けたいとのこと。
一人で運ぶために、台車に一工夫しました。
こんな養生をして作業所に運び込みました。確かに国内のモノより一回り大きいです。

まず、修理すべき個所を子細に調べます。特に引き出しの表面の割れの原因はしっかり調べる必要があります。

引き出しに割れがあります、同じような痛みが左右にあります。この傷み方が特徴的です。なんとなく原因が予想できます。
傷みはレールの終わったところにあります。
メールに擦れることで、引き出し側の溝が摩耗してしまっています。
荷重のかかる上の面の角がなくなってしまっています。
傷のある場所はみな同じ条件のそろったところにあります。予想が的中です。

この真因に対処しないと、今後また同じことが起きます。

ここも、まだひどく傷んではいませんが同じ症状です。

以上の観察から、引き出しを押し込む時に、引き出しの奥が突き当たるより先に、レールの先端が引き出しの表面版の裏側に当たってしまって、内側から表に向かって突出したこのような傷になったとわかります。

レールが摩耗して動きが渋くなっていたため、かなりの力で押し込まないと引き出しが収まらなくなっていたことも、この傷ができる原因になっています。

続いて、レールの側についても子細に観察します。

レールは、摩耗して本来の位置から下にずれてしまった状態でかろうじて止まっています。
全てのレールに同じ兆候があります。
このレールは荷重に耐えきれず、割れて下がってしまっています。本来あるべき位置の墨だしが残っていますが、2センチほど下にずれてしまっています。これでは下の段の引き出しに干渉してしまって、動かなくなります。
引き出しが滑りやすいように樹脂が貼られています。以前に一度一度直しが入っているようです。単に滑りをよくする調整だけで済ませる直し方で、真因に対処していないようです。またレールの再固定に釘を使っている点もよくありません。レール全体で荷重に耐えるようレール全体がしっかり接着されているべきです。釘ではレールの部材が割れてしまいます。

レール部材の交換と、引き出しの溝の復元、さらに引き出しのストッパーを新規に追加する方針で、具体的な修理に入ります。

レール用の部材と引出の修理材を切り出します。
レールを外します。接着がしっかりできるよう、表面の塗装を削り落とし、荒らしてあります。
摩耗した溝をルーターで拡張し、堅木を埋め込む溝を掘ります。
ガイドに当てて平行に溝を切ります。この後でこの溝に桜材を埋め込みました。

今後摩耗しても交換しやすいレールの方を柔らかい木で、交換しづらい引出側の溝の方には硬い木にしました。

床に接する底の部分です。鋲を外し、補強して硬質フェルトに交換します。
底面の補強部材を接着しています。この後で床に接する部分に硬質フェルトを貼って仕上げました。
引き出しの取っ手を外します。
取っ手のメッキが傷んでいます。取っ手そのものは真鍮製でずっしり重みがあります。フランジ状のパーツはプラスチックのようです。
取っ手の洗浄です。重曹をふりかけ、水をスプレーして1日おいておきます。
突板の欠損しているところです。左側は掘った溝に桜材を埋め込んで修復したところが写っています。
まずエポキシパテを盛り、
エポキシパテが硬化したら、周囲が傷つかないようラッカーテープで養生して、サンドペーパーをあて、平面を出します。
引き出し表面の割れの修理です。なるべくオリジナルの突板を活かしたいので、浮いた突板に接着剤を押し込み、平面が出るように平らな板材を1枚かませて借り釘で圧着しています。
剝がれている突板が、平な板材の側に接着されてしまわないよう、板材には両面テープを剥離紙を付けたまま貼り付けてあります。この剥離層があれば接着剤が浸み出てしまっても板材に接着されてしまうことは防げます。
以上の木工修理が完了した後、全体塗装をして完成です。一見すると何の変哲もないチェストに見えますが、細部に控えめな装飾がされた、桜材の趣のあるチェストです。

今回の修理では、表から見えないところにかなり手を入れました。引き出しのストッパーを付けたことはお使いになる方にはすぐにわかります。これからも愛用に応えてくれるチェストに生まれ変わりました。