シラカワ家具のロートレックの椅子張り生地の張り替えを依頼されました。ともて巧妙な作りで、最初に下見させていただいた時には、背もたれの生地はどのように張られているのかわかりませんでした。
今回使った道具は、特殊鋼の刃先が付いた幅2mmのプラモデル用のノミであり、木工旋盤用の刃であり、ワイヤーカッターです。ワイヤーカッターは刃を削り落として平らにして、その強力な挟み込む力でつまみ上げて引き抜くので、もう元のワイヤーカッターとしての機能は失われています。ですがこのような工夫がなければに、溝の底に打ち込まれたステープルを抜くことが出来ません。ただしその数は尋常ではないのですが。
座面の方は、ごく普通の張り替えで済みました。ですがこの背もたれの張り替えの難易度は相当高く、現行品でも、この太鼓張りのような方式をとっているのか疑問です。というのはステープルを打てる範囲がほぼ5mmほどしかなく、結果一直線に並べて打つしかないのです。流石にこれでは何回も張り替えることはできません。木部が穴だらけになりステープルを保持できなくなるからです。
最初にこの椅子を見た時には、ごく普通の四角っぽい椅子だと勘違いしていたのですが、実際に張り替えてみると、とても手の込んだ造りになっていました。背もたれの生地はスポンジも合わせると四重になっていて、しかも固定したところは表面からは見えない作りなのです。
専用の工具を工夫したり、治具をつくったりして張り替えることはできましたが、これら全ての事が座り心地の良さを追求した結果であることに共感を覚えました。
見た目の派手さはないのですが、座ってみると他の椅子では味わえない包み込まれ感があります。フレームも実際に手掛けてみると、微妙に湾曲したり、ねじった形状になっていて、座り心地のために惜しみなく技術が注ぎ込まれていることがわかります。
世界で名高い椅子はいろいろありますが、日本の椅子にもこんないいものがあるのだと誇りに思える椅子でした。