「収納扉のヒンジが壊れたので直してもらえないか。」という電話から始まりました。

今回ご紹介する事例は、ほとんど写真が撮れてなく、ご紹介するのをあきらめようともしたのですが、同様の不具合でお困りの方も多いのではないかと気づき、文字中心にはなりますが、修理の顛末をあえてご紹介することにしました。

いつも通り実物を拝見しにうかがうと、修理の対象は造り付けの家具で、廊下に面した壁収納庫の扉でした。ご依頼者のお住まいは大きな集合住宅で、鉄筋コンクリートの5階です。建物が出来てから25年は経っているとの事です。造り付けですから建物と同時に完成し、作られてから20年以上経っているわけです。これは難しい修理になるなと感じました。

というのは修理の対象が造り付けなので、修理は出張作業になること。壊れたヒンジ金具を入手して交換するのが最も理にかなった復旧の手段なのですが、20年以上経っているとなると同じヒンジ金具が今でも入手できるかわからないこと。などがその主な理由です。

正直にこのことをお伝えして、まずはメーカ―名と品番を確定することから始めなくてはならないことをお伝えしました。

過去の経験から、しっかり管理された建物には施工時の図面が一式保管されているはずです。建物の営繕担当がいるなら、そこに相談するのが最短コースです。竣工図には建具のメーカー名、品番が記載されています。このお話をしたところ、図面も営繕もいずれもないとのご返答です。

現場の写真を撮り、壊れたヒンジ金具を取り外して持ち帰りました。持ち帰って詳しく調べてみると残念なことにこのヒンジ金具にはメーカー名も品番も刻印されていません。しかたなく見た目だけを頼りにネットで似たような金具を検索します。

半日ほどかけてどうもこれらしいと思われるヒンジ金具を見つけ出しました。そこから検索先を広げ、ついにメーカー名にたどり着くことが出来ました。今でも健在なメーカーなので一安心しつつ、ネットでメーカーカタログの手配を済ませました。

入手したカタログを持参して再度ご依頼者宅を訪問し、今度はそのメーカーのどのシリーズのどの部品を何個入手すべきか詳しく再調査しました。決して安い部品ではないので、適合しない部品を手配してしまっては話になりません。

その時に撮った写真が下記です。

下部のレール。レールの幅でシリーズが特定できます。
扉上の回転軸
扉上端のレールスライダー
破損したヒンジ金具
上のレールと軸受け
下の軸受け

メーカーカタログを手に入れたことで、今回修理するのは「折り戸」といわれる形式の扉であることがわかりました。脚立に乗ってよく見ると「上の軸受」金具にはメーカー名の刻印がありました。前回見た時には暗くて見落としてしまったようです。

壊れている上に重い折り戸を、苦労してレールから外してみると、本来3個ついているはずの壊れたヒンジ金具が2個しかついていません。ご依頼者にうかがうと、以前修理したことがあるとの事。この一言でやっと真相がわかりました。

以前の修理では、左右全部で6個ついていたヒンジ金具の内、壊れたヒンジ金具を2個取り除き、左右それぞれの2個のヒンジにしてしまう手抜き修理をしたのです。

しかし本来3個で受け止める荷重を、2個だけで受け止め続けた結果、ヒンジ金具が破損してしまったのです。合金製の金具が割れて砕けるようなひどい壊れ方をしていたのは、必然の結果だったのです。

こんな顛末で、諸々の事が掌握でき、しっかりとヒンジ金具の品番を特定しヒンジ金具は全て新品に交換。無事修復することができました。

例えば、2枚目の写真に写っている「扉上の回転軸」は上に抜けかかっています。この写真で見える白いプラスチックの部分は全て扉の中に押し込まれていて見えないはずなのです。これは最終組み立て時に押し込み、正しい位置に直しました。このように、長年使われてきた結果、壊れていないにしろ、直さないとならない位置のズレと、部品の手配をして交換しなくてはならないものと、正確により分けて判断するために、手に入れたカタログから必要な情報を読み解き、理解しておく必要があるのです。

今回の修理では、合計3回施主宅を訪問しました。実は他にも直してほしいと言われた軽微な補修も同時に行ったのですが、施主宅での作業は毎回1時間と少しですみました。事前事後の調査や部品手配にかかった時間の方が圧倒的に長いのです。

練馬にも築20年を超えた集合住宅はとても多いです。そのほとんどの物件でしっかりとした修理ができていないのが現状ではないでしょうか、このようなケースは今後もたくさん起きてくると思います。

似たような不具合があって、困ってらっしゃる方、ご参考になさってください。