「脚はご自身で接着してお使いください」訳すとこんな感じでしょうか。製造者責任はどの国のメーカーにとっても重いものなのです。修理にしても同様です。
木工用のネジ切り工具はあるのでしょうか、またネジの規格はどうなっているでしょう。わからないことだらけですが、ノギスで測った寸法でネット検索して探し出し、それとおぼしき工具を注文しました。
結果は惨憺たるものでした。元々の脚に使われている材と似たような、針葉樹系の樹種で作った凸部には、ネジが切れるどころかボロボロの丸棒になってしまったのです。よく観察してみると木に粘りが足りなくて隣り合う溝の底でひとつながりになって、ネジ山のトップが剥離するように砕けてしまっているのです。木くずが詰まることも一因のように思えます。
そこで手元にある樹種で最も粘りがあり強い樹種、ハードメイプルで凸部の成型から再度挑戦しなおすことにしました。
脚が折れるのは怪我につながことなので、修理するなら脚を固定させていただきたいとお話ししたところ、ご依頼者様は、この椅子に腰かけることはせず、植木鉢などの飾り台として使うので、しまう時に便利なようにしておきたい、とのことでした。
修理作業もオリジナル通りにネジを切る方が難しく、当初はまだ木工用のネジ切り工具の存在を知らず、手に入った時点で試してみるまで、ネジの規格が合うかどうかも不明でした。最悪の場合は、雄ネジを手彫りする覚悟だったのです。
手掘りするとなった場合には、どう頑張ったところで雌ネジにぴったり合わせることは事実上不可能です。うまくいってもガタつく程度の接合しかできないと思っていたので、「人が座らない前提で修理する」という条件は必須でした。
実際に作業を進めてみると、一度失敗はしたものの、オリジナルよりもきれいで強い雄ネジを切ることが出来ました。とはいえ、この猫ちゃんにお座りになるとしたら、あくまで自己責任であることに変わりはありません。その思いは次のようなものです。
スペインのメーカーさんも昔から続いている伝統と実績があるから作れるのだと思います。
極端な例かもしれませんが、日本にも危険が伴う「祭り」はたくさんあります。数年に一度は山車にひかれて死者がでたり、骨折した者がいたり、そうしたマイナス面を凌駕する歴史的、文化的な価値を認める社会通念があるから可能なのです。
この可愛らしい猫ちゃんの椅子も、永く受け継がれていってほしいと思います。