天板の割れたC型食卓と座面の割れた椅子、無垢の木製家具、松本民芸家具の修理をしました。

食卓の天板の割れを詳しく観察してみると、割れは全て木材の接合部分に起きていました。その原因は、接着剤として使われている膠が湿気によって溶解したのと同時に、環境湿度の極端な変化により、接合された部材ごとに異なる方向へ反ったのためだと思われます。たぶん、長期間屋外で雨風に当たるか、シート覆われていたとしても、内部に入り込んだ湿気や水気に晒されていたのかもしれません。

割れの状態をさらに詳しく見てみると
小口にこれだけのずれが生じています
割れは接合部のはがれです
つまり製造時に継いだ場所が開いてしまたのです。
塗装の劣化や剥がれ、食器の跡なども散見されますが、これは再塗装でなくなります。

食卓の修理開始です、まず全体にクリーニングします。

割れ目に入り込んだゴミや予後を圧縮空気やペンティングナイフで取り除いていきます。
重厚なデザインの脚もざっとクリーニングし、
このように立てて下からもクリーニングし、
接着剤を押し込んでいきます。
割れ目に沿って接着剤を押し込みます
上からも接着剤を押し込んでいきます。
クランプ総動員でがっちり固定して、ひたすら1週間以上養生しておきます。割れが小口に達した所には上下もC型クランプで挟み、ずれを防止しておきます。あふれ出た接着剤は丁寧にぬぐい取り、C型クランプの当て木の接着面には両面テープの剥離紙を挟みこんでおけば、後の工程がスムーズに進められます。

養生している間に椅子の方にかかります。

椅子の座面にも割れが生じていました。製造時の接着面のはがれが原因の割れで、食卓天板と同じ原因だと思われます。作業自体は再接合なので、位置さえしっかり合わせれば接合面の成型などの作業が不要ですが、本来割れるはずのない所が割れているのですから、しっかり接合しないと椅子として機能しません。ひたすらがっちり再固定していきます。

接合面の再接着にはポニークランプの強力な締め付けが、位置合わせにはC型クランプや木製クランプの取り回しの良さを活かして作業を進めます。
椅子は6脚あるので不具合のあるモノを順次再接着していきます
割れの方向や力のかかる方向を考慮した再接着が続きます。
唯一背もたれの支柱に割れが生じた椅子の接着です。
力のかかる方向を考慮して完全な接着をします。
一定の養生期間を終え、再接着で再生した椅子たち。
傷んだ塗装のタッチアップや最終のコーテイング作業を1脚ごと進めます。
ちなみに、この回転台は向きを自在に変えられるテレビ台用のベアリング台座を使って自作したものです。
艶かげんを整えて椅子の修理は完了です。脚底には硬質フェルトを貼って仕上げてあります。

食卓の修理作業に戻ります。

接合の終わった天板をオービタルサンダーで削ります。40番80番120番と研磨痕を削り落としていく要領で全面にかけ続け、
120番以降は木目に沿ってサンデイングブロックによる手作業です。
240番で木肌を整えます。今回全ての研磨はドライ研磨で行いました。
深い木目の部分は研磨が及びませんが、オリジナルと同じ色を再現するので問題ありません。
ただひたすら研磨し続ける根気のいる仕事ですが、出てくる木目の美しさが楽しい仕事でもあります。
軽く水で濡らし、仕上がり状態をチェックします。無垢の木製天板の作業は、前工程が常に後工程で見えてしまう、ごまかしの効かない作業です。前作業の不手際は後作業ではどうすることもできません。
一回目の着色です。正直この工程はいつも勝負の気合が必要です。積み重ねてきたものが一度に現れてきますから。
2回目の着色です。たぶん最上級の出来栄えです。小口も成功しました。
最終コーティングが終わったところです。この後完全乾燥すると幾分艶が引きますが、今回の塗装仕上では塗装するたびに番手を上げ、最後は600番までの研磨をしました。

松本民芸家具は柳宗悦の民芸運動が発祥の家具メーカーです。信州産の無垢の木材をふんだんに使った、重厚なデザインが特長です。今回手がけさせていただいたC型食卓や椅子は、日本人の体格に合ったサイズ感で、特に座面や天板の高さについては、室内では靴を履かないライフスタイルを意識して設定されていて、かつ全体のバランスも美しく保ったまま、西欧の家具デザインを日本文化に適合し、昇華させていると言ってもいいかもしれません。実際に修理を手がけさせていただいてなるほどと納得させられることばかりでした。その良さに魅了されている方々に少しでも長くお使いいただけるよう、これからもお手伝いさせていただきたいと願っています。