外出自粛のありあまる時間を使って、以前ネットオークションで手に入れ、手つかずだったドクターチェアをリストアしました。
破けた生地を本革に貼り替え、脚部を改造してボールベアリングの回転機構を組み込んでいます。

修理完了写真 本革に張り直し、各所を完全に修復し。脚部の回転機構をボールベアリングに取り換えました。

修理前の状態、ひじ掛けの先の生地が破れ、座り心地にも違和感がありました。

以下はその作業経過です。今回は長くかかった作業を詳しくご紹介するので、100枚くらいの画像になります。
お時間のある方はゆっくりとご覧ください。

まずは壊れている箇所を詳しく調べていきます。

背の部分の生地が裂けています、角の所がこすれて薄くなり、引っ張られて裂けてしまったようです。

生地がずれて、下地のクッションが見えます、これ藁のようです。つまりこの椅子は30年以上前に作られたもののようです。

ひじの先は特に痛みがひどく、内部のフェルトがむき出しの状態です。

太鼓鋲の下のリボンも色あせて、ところどころちぎれそうです。

ひっくり返して脚部の取り外しから作業開始です。

マイナスの木ネジです。ebayで手に入れたイギリス製のドライバーが活躍します。

ネジの頭を舐めない様に力を込めて外します。

外れました。座面の底には無垢の木の板が使われています。

回転させると座面の高さが上下するのですが・・・・

ネジが摩耗してガタツキがありました。これを解消する、今回のリストアの目標の一つです。

ボールベアリングの仕込まれた回転機構に交換です。このタイプの機構に交換すれば、広い面積で回転平面を維持するので、ガタつきも少なくなります。

逆さにしてみたら、破断しているところを発見。これは一大事です。

化粧のリボンも劣化が進み引き裂けてますし、大切なメインフレームにはこんな亀裂もあります。このフレームは完全に直してしまわないとなりません。

背の部分の後ろ側の内部は空洞でした、これは生地が裂けて当然です。

交換する生地も強いものにしないとなりません。太鼓鋲で止められフレームに接する角の所には強い力がかかります。

さて、新しい回転機構を組み込むための脚部の改造にかかります。

溝を切り出します。

クロスする方向にも溝を切り出し、新しく付け足す木材をはめてみます。

椅子のデザインに違和感ない形を新部材を切り出し、整形しました。

組付けるホゾを調整します。

新部材の下地調整です。オリジナルのフレームの色に合わせて塗装の下準備を進めます。

次に古い生地を外していきます。

外した太鼓鋲です。青く塗られてました。

生地をあまり傷めないよう、慎重に外していきます。後でこの生地から型紙を作るので、形が変わってしまうと不都合です。

リボンの裏側です。元はこんなに鮮やか青だったんですね、織目の凝った美しいリボンです。

さびていて頭が取れてしまう太鼓鋲もあります。

破断したフレームが現れました。スペースが十分とれるので、これなら強度のある修理ができそうです。

背の部分の裏側です。この麻布の向こうにクッションと背中に当たる生地があります。

いよいよ椅子本体の表側にかかります。

背中の真後ろの柱に凝った装飾がありました。

よく見ると色の違う木を象嵌した薔薇の花です。これもきれいに復元していきます。

ひじ掛けの生地を剥がします。

フェルトの下には丁寧に紐で束ねた藁が入っていました。藁は保温性抜群で、どんなスポンジより優れた芯材です。

再利用するので慎重に構造を観察します。昔畳職人がやっていたように長い針で縫い付けてあるようです。先端には、丸く整形したフェルトがついていました。

背中に当たる部分の生地を剥がします。

背中はひじ掛けの部分となだらかに連なる藁で成型され、その上にフェルト、仕上げに生地が張られていました。

フレームの修理にかかります。まず亀裂の部分を再接着します。

昔の修理跡が出てきました、ブリキの板で補強してあります。これを全て外します。

私は新たに補強用の木部材を切り出し、圧着して補強して修理しました。

象嵌装飾された部品を一旦取り外します。

研磨して劣化したニスを全て取り除きました。象嵌装飾がはっきりと蘇りました。

いよいよ座面の取り外しです。座面の生地を全て取り除くと、まず全面を覆うフェルトが現れました。

フェルトの下には麻布があり・・・

その下にはコイルスプリングがありました。

スプリングがへたり、座った時にお尻が深く沈み込み、底板に当たることが、違和感の原因になっていたことがわかりました。どうやったらこれを解消できるか、作業をしながら考えました。

ここで木フレームの塗装をします。古いニスを研磨して落とし、色合わせして艶を整えます。

脚部と象嵌された柱です。色と艶が整い、新しく付け足した部材も違和感ありません。

検討の結果、座面のへたったコイルスプリングは全て取り外し、スポンジのクッションに交換することにしました。

フェルトとその下の藁はそのまま活用します。

形に切り出したスポンジです。厚さ12センチあります。

座面の周囲には巧妙に整形された麻布で、言わば土手のような作りになっています。これもそのまま活かします。

座面の前端には木材が足され、座面の奥行きを広げた跡があります。過去にかなり大がかりな手入れをされたようです。

スポンジの下側の、フレームに干渉する部分を取り除きます。

スポンジを組み込みました。

いよいよ新しい生地の張り込みです。今回は牛の本革を使いました、全部で牛1頭の半分の面積が必要でした。

革を張ると、特に内Rの面にはしわが出てしまいます。ですがこれも織物には出せない味です。革にはすべすべした手触りと、温かい風合いがあります。

次にひじ掛けの部分の革張です、

先端の部分の成型が難しいので、今回は裂けた布地ごと革の下地にしてしまい、生地の上から革を張っていきます。

ひじ掛けの部分の革張り完了です。

革張りには、オリジナルと同じように小釘を使いました。

一本一本金槌で打ち付け、革の張り具合を調整していきます。

先端部分の角は織り込んで形を整えています。

後ろ側の革を張ります。革を裏返しに張り、釘で止た跡が完成したら見えなくなる難しい作業です。最後に裏返すときは革に湿り気を与えて伸ばし、一気に表にかえしました。

最後に座面の革張りです。クッションと藁、フェルトをセットします。

型紙を当てて切り出した革を被せます。

柱を出しながら革を張っていきます。

最後に余分な革を切り取ります。

フレームに掘られた溝の角に当ててヘラで線を引き、切り落とします。

余分な革を取り除いた後、釘の頭をリボンと太鼓鋲の装飾で隠します。革張りのドクターチェアの完成です。

以下は完成写真です。

後の部分です。湿らせて伸ばした革が乾いてピンと張り、自然な曲線に仕上がりました。

脚の部分です。新しい部材も違和感が全くありません。

柱の部分もオリジナルに倣い、丁寧に仕上げました。

ひじ掛けと座面です。リボンの色は革の色と真鍮の太鼓鋲に合わせて選びました。

広い座面で座り心地抜群です。背もたれの形状が絶妙です。昔からの藁の保温力と、新しい革の適度な滑らかさが相まって、長く使われてきた椅子はやはりいいものだなと、改めて見直しました。

最後に、ぐるりと一廻り撮りましたのでご覧ください。

とても座り心地の良い椅子です。藁の保温力と、革の適度な滑らかさが秀逸で、昔から革の椅子が良いとされるのは、なるほどこういうことかと納得できます。