「記念の桜から箸を作って親戚に配りたい。」との依頼を受けました。

10年以上乾燥させた桜の丸太は、元々ご実家に植わっていた桜から取ったもので、事情で伐採する事になり、将来何かに使いたいと、大事にとっておいたものだそうです。木と人の魅力的なエピソードに心動かされ、気が付いた時には「私も木が好きなのでとにかくお受けします」とお応えしていました。

お預かりした桜の丸太の製材から始めます。この鉈が活躍するのは友人宅に薪割りの遊びに行って以来、数年ぶりです。
2つに割いて、さらにこれを割きます。
4つに割けました。こうすれば木目の通った箸にできるわけです。
木目に沿って割れた面から平面を切り出して基準面を作ります
基準面さえできれば昇降盤でも安全な作業ができます。
基準面に平行な面でスライスしました。元来が製材用の機会できないので、この丸鋸ではこの大きさが限界だと思います。刃もいっぱいまで出していて危険な作業です。
製材が終わり、いよいよ箸の形を切り出します。

さて、ここからが大変でした。実は大変な回り道をしてしまったのです。ちょっとした失敗談になります。このエピソードの先を引き継いでいただける方に、この後を託します。

いろいろ調べてみたところ、「田」の字型に斜め切りするとテーパーのかかった一対の箸が貼り出せることがわかりました。ネット上の動画を繰り返し見て、専用の治具を設計しました。
設計通り治具を作ります。この一連の治具づくりが遠回りの道筋でした。どなたかこの方法改良して実用化してください。この先を突き進めば箸の大量製作も夢ではありません。
箸になる部材をはめ込む凹みを整形します。テーパーを付けるために斜めにセットする必要があるため、結構手間のかかる治具づくりとなりました、結局今回は水の泡になりましたが。
材料を押さえるカムです。ワンタッチで固定できるよう工夫を凝らしています。
部材の後ろ側を押さえるハサミ状のハンドルです。6mmのボルトを軸にした、結構しっかりしたものなのですが・・・
しっかり圧着して治具の完成です。ワクワクしながら試してみると・・・材料が丸鋸の刃に押され、安定感が今一つなため、正確なカットができません。よく観察してみると、カットの最中に、材料の進行方向の下から斜め上方向に丸鋸の刃の反作用の力が起きていることが、不安定なカットの原因なのだとわかりました。
鉋盤や自動鉋盤を持たないので、この治具にピッタリ収まる正確な大きさの材料を、いくつも作る労力も相当なものになってしまいます。結局、この方法では現実的でないと考えなおしました。
ですが、どなたかこの方法を推し進めて良い結果を導ける方、この先の道を進んでください。達成のために必要なものは「よく切れる細工用の丸鋸の刃(薄刃)」と、原材料を正確に量産できる環境(正確な面角度を出せる手動鉋盤と均一な厚さに仕上げられる自動の鉋盤)のようです。

さて、とんだ回り道してしまいましたが、では箸を10膳どうやって作るか・・・。気を取り直して、普段使っているコンターマシンを使う方法に切り替えました。

コンターマシンは本来金属用ですが、難鉄用の刃を取り付けて細かな木部材の切り出しに便利に常用しています。コンターマシンは切り進む方向と刃の切る方向が直行していて、カットする部材を不用意な方向に動かしてしまわないのが良いです。カットに時間はかかりますが、慎重に切り進めばカット面を維持した、正確な形を切り出すことができます。
カットの途中で写真を撮りました。まずこの方向で斜めにカットします。
切り離した面を再び合わせて、90°回転させ、直行した面で再度同じ傾斜のカットをします。
カットの最中に部材が離れてしまわないようテーピングで固定して、テープごと切り離します。
2回目のカットが終わったところです。
テープをはがすと2本の箸の切り出しと、余りの部分が2本ができています。この方法だと、木目が互い違いなので箸として使う時には箸の弾力が対称になります。木目もそろうので見た目もきれいな一善の箸になります。

失敗した治具も切り出す箸の木目がそろう点では全く同じ考え方になるので、「田」の字カットは、今回挑戦してみた成果です。

跡はサンダーで形を整えていきます。60番、120番、240番と番手を上げて手触りの良い肌理を整えていきます。
削り終わりました。
後端に丸みを付けて箸の形の仕上がりです。これを必要な数だけ繰り返し、拭き漆で仕上げました。テープ状に切り出した和紙で一善づつ組にして、無事お納めしました。