大正時代から昭和初期に作られた、木製の店舗什器の修理のご依頼がありました。内部にガラスの三段棚のある、ガラスケースと、天板が開閉式のガラス扉になっている背の低いガラスケースの補修です。
全てのガラスには木製の枠が付き、無垢の木材から丹念に削り出された部材で組み立てられた、味わいのある古風な什器です。京都方面のたばこやさんで使われていたものだと伺いましたが、当時の家具職人の持てる技量がふんだんに注がれたものだと一目でわかります。
なかなかお目にかかることのない貴重な家具です。どのような作りになっているのか興味津々でお引き受けしました。
車での移動の際、棚が振動で干渉しないように木製クランプで要所要所を固定して、工房に運び込みました。
そもそも今回の補修のご依頼は、このガラス什器のグラツキをなくしてほしいというご相談から始まりました。四方がガラスで、その内部にもガラスの棚があります。そんなガラスがふんだんに使われた什器がグラグラするようでは、とても間仕切りとして使うことはできません。ご依頼を受け最初に拝見した時からこのグラツキをなくすにはどうしたらよいか考え続けてきました。極力外から見えない場所で補強するにはどうしたらよいか・・・。目の付け所はこの4本の柱の上下、計8か所の接合部を何らかの方法でしっかり引き締めることでした。
今回の補修では、オリジナルの造りがどのようになっているかしっかり理解した上で修理することがいかに大切か、再認識しました。見た目にはほとんど手を加えていないように見えて、見えないところで要所はしっかり押さえてある。理想的な修理は、オリジナルへの理解がベースにあってはじめて可能になるのです。