今回の修理の目的は、折れた脚を直すことですが、この折れた場所は最も力のかかる場所であると同時に、その付け根の部材には修理の跡があり、単に折れたものを繋ぐだけでは必要な強度が得られないことがわかりました。修理の当初計画では、補強用の桟の追加をご了承いただいていたのですが、急遽施主にご了解をいただき、脚をまるまる一本再生する方針に変更させていただきました。
そんなわけで以降は、原寸サンプルを目前にした脚一本の再生の記録になります。
ハードメイプルの塊は、この型紙持参で新木場まで行き、よく乾燥した材を手に入れました。ハードという名前の通り、硬く粘りのある材で、この厚みのモノの曲線切りには金属加工用のコンターマシンを使ったのですが、一辺切るのに90分ほどかかる非常に骨の折れる作業でした。
この手の収縮するダイニングテーブルの優れたものは、これまでの経験ではアメリカ製が多いです。ホームパーティーを開く習慣があるアメリカでは、大人数にも対応できるダイニングテーブルが必須なのかもしれません。今回修理した、HEYWOOD-WAKEFIELD製のバタフライテーブルには、実は今回引き取ってこなかった拡張用の天板が別にあり、それを載せた時の全長は2mを優に越えます。
全長が変わる多段式のメインフレームが天板下に仕込まれていて、6本ある脚ごとスライドさせて収縮する巧妙な仕組みが天板下に収められているのです、しかも驚くことにその構造体は全て木製です。また、脚の裏には床上で滑らせる前提でつけられた金属製の滑らかな形状のパーツが打ち込まれています。
スライドさせている際に脚が受ける負荷や、床の凹凸に引っかかったりした際に受ける衝撃にも耐えられるよう、6本の脚にはかなりの強度が与えられています。それでいて優雅な曲線を描くデザインは、鉄腕アトムのプルートの角を連想させます。また逆に天板をたたみ、最小にした時の大きさがごく小さいことには、驚かされます。今回の修理を通して、生活の必要に応じた進化が家具にもたらすものの大きさを痛感させられました。一言で言えばそれは伝統の重みなのだと思います。