テーブル裏のメーカー名です、HEYWOOD-WAKEFIELD 1826年創業とあります。図柄に鷲をあしらったアメリカらしいロゴマークです。
今回ご依頼いただいたダイニングテーブルはアメリカ製のバタフライテーブルです。6本ある脚の内、1本が根元から折れています。
折れた所を見ると修理痕があります。
この脚の支柱ごと天板から外すには・・、バタフライの機構を観察します。
テーブルを広げた時に支えになるこのパーツを外さないと脚が取れないようです。
回転の軸がビスになっています。このビスを外し、金具を外すと・・・
回転軸の真裏になる場所に探していたものがありました。
脚の支柱を固定しているビスが、木栓で埋め込まれているようです。
木栓をドリルで取り除き・・
ビスの頭が見えました。予想通りです。
このビスを抜いて、
やっと脚を取り外すことが出来ました。
外したパーツと外れた脚を並べてみます。
不思議なことに内部から脚を引き留めるビスが打たれています。これはいったい・・・
修理痕には不定形の断絶部分に接着剤がたっぷり塗られていて、かえって接合部に隙間ができてしまっていたようです。
やはりこのビスは内部から打たれています。
何故、どんな理由で・・・と疑問に思いつつ、補強金具を外し、
「ありホゾ」加工の継手をカシメている丸棒をドリルで粉砕して
「ありホゾ」継を解体して分解します。
問題の根元のパーツがやっと外れました。
ありホゾの側から長ビスが打たれていました。その頭は今では使われないマイナスです。
以上の事から推理すると、以前ありホゾを引き抜くほどの本格的な修理が行われたことがあった。また、その時代は木ネジがまだマイナスだった頃ということになります。ことによると製造時に既にこのような修理が加えられていた可能性すらあります。

今回の修理の目的は、折れた脚を直すことですが、この折れた場所は最も力のかかる場所であると同時に、その付け根の部材には修理の跡があり、単に折れたものを繋ぐだけでは必要な強度が得られないことがわかりました。修理の当初計画では、補強用の桟の追加をご了承いただいていたのですが、急遽施主にご了解をいただき、脚をまるまる一本再生する方針に変更させていただきました。

そんなわけで以降は、原寸サンプルを目前にした脚一本の再生の記録になります。

脚を再生するにあたっては、まず型紙をおこし、
型紙を切り出すことから始まります。
充分な大きさのハードメイプルの塊を手に入れて、型紙通りに切り出します。

ハードメイプルの塊は、この型紙持参で新木場まで行き、よく乾燥した材を手に入れました。ハードという名前の通り、硬く粘りのある材で、この厚みのモノの曲線切りには金属加工用のコンターマシンを使ったのですが、一辺切るのに90分ほどかかる非常に骨の折れる作業でした。

以降、外した脚の形を映す作業になります。時折横に並べて比較して、形の確認をしながら作業を進めました。
ここから脚の形状を削り出していきます。
木を削り形をつくる道具の総動員です。特殊な鉋を使い、
粗目のやすりで、まず内側のR面を削り出します。
この面が基準になるので、このR面は正確に削り出さなくてはなりません。
小口には断面の曲面を書き入れておきます。
次に側面が平行なこの段階で、「ありホゾ」を加工をします。まず「ありホゾ」を罫書き、
手鋸とノミで整形していきます。
まず大まかな形に鋸で切り出し
斜めの面を鑿で削り出します。
ついで余分な所を切り落とし、
接合部の平面をやすりで削り出して、ひとまず「ありホゾ」の完成です。
続いて、外R面にも目標となる面との接合線を書き入れ
電動鉋を使ってバリバリ削って整形していきます。
時折、外した脚と比較してみて形の確認をしながら作業を進めます。
外側のR面も大きな面取りから多面体、R面へと少しずつ目標の形に近づけていきます
時折クランプを挟み直し、付け根のRも削っていきます。
大まかな成型が終わりました。
ここからはスポークシェーブを使って整形していきます。
スポークシェーブは馬車の車輪のスポークを削るための工具です。南京鉋と同じ構造ですが、洋材にはこちらが相性が良いようです。工具オタクのせいなのか、なぜか以前から所有していて出番を待っていた工具です。
だいぶいい感じの形になってきました。
鉋類の出番はここまで、以降サンデイングペーパーの出番です。
#40の粗目から順次#120までサンデイングペーパーの番手を上げていきます。
内側の面取りもすませて、
塗装の下処理に入ります。
オービタルサンダーで#120、#240番と表面を平滑にします。
砥の粉による目止めです。まだ濡れています、乾くと浅い色になります。
外Rもいい感じで仕上がっています。
脚底の金具を折れた脚から移植し、サンドペーパーで余分な砥の粉を落とします。
着色して中塗り、仕上げ塗装へと、段階ごとに研磨と塗装を数回繰り返します。隣の脚と比較しながら極力同じ色艶になるよう仕上げていきます。
次に組み立ての準備です。
「ありホゾ」の雌側をクリーニングし、以前の修理の残滓をきれいに取り除きます。
仮組を何度もしながらぴったりと収まるように調整します。
再生した脚を取り付け、補強の金具を付け、
本体に組付ける準備です。
組み上げる前の最終確認です。
元通りに脚を組付けました。
ビス穴に、
木栓をして、
余長を切り落とし
色合わせして完成です。
天板の補修は今回の修理の範囲外でしたが、
軽くサンデイングして
さっと一塗りして塗装の剥離を抑えました。この写真で、手前の方はまだ濡れています。乾燥すると均質な艶に仕上がります。
再生した脚が見える完成ショットです。どれが再生した脚か、判別できません。

この手の収縮するダイニングテーブルの優れたものは、これまでの経験ではアメリカ製が多いです。ホームパーティーを開く習慣があるアメリカでは、大人数にも対応できるダイニングテーブルが必須なのかもしれません。今回修理した、HEYWOOD-WAKEFIELD製のバタフライテーブルには、実は今回引き取ってこなかった拡張用の天板が別にあり、それを載せた時の全長は2mを優に越えます。

全長が変わる多段式のメインフレームが天板下に仕込まれていて、6本ある脚ごとスライドさせて収縮する巧妙な仕組みが天板下に収められているのです、しかも驚くことにその構造体は全て木製です。また、脚の裏には床上で滑らせる前提でつけられた金属製の滑らかな形状のパーツが打ち込まれています。

スライドさせている際に脚が受ける負荷や、床の凹凸に引っかかったりした際に受ける衝撃にも耐えられるよう、6本の脚にはかなりの強度が与えられています。それでいて優雅な曲線を描くデザインは、鉄腕アトムのプルートの角を連想させます。また逆に天板をたたみ、最小にした時の大きさがごく小さいことには、驚かされます。今回の修理を通して、生活の必要に応じた進化が家具にもたらすものの大きさを痛感させられました。一言で言えばそれは伝統の重みなのだと思います。