長年使い込まれたタンスの修理のご依頼がありました。事例紹介(132)と同様に、引き出しだけお預かりして直します。不具合の原因が異なるので、直し方は全く異なります。ちょうどよい比較対象なので、ご参考に紹介します。

お引き取りしてきた5棹の引き出しです。
長年使い込まれたことで、側面の下側、引き出した時に本体に擦れるところがすり減っています。
この位置から見ると、本来直線であるはずの側面の下端が、曲線になっていることがわかります。最大で8mmほど摩耗しています。
奥の板が割れています。引き出した時に引っかかり、底板をはめ込んだ溝から割れてしまっています。この症状は5棹すべてに共通しています。5枚全てを新しい板に交換します。
同時にお引き取りしてきた、洋服ダンスの扉。
ヒンジを留めているビス穴の位置で割れが入っています。こちらの修理も同時に行います。
割れた個所に接着剤を入れ、
クランプで固定して一晩養生しておきます。ヒンジを固定するビスが効くように再生できれば、後は納品時に本体に取り付けるだけです。
さて、引き出しの方は交換する奥の板を切り出します。底板が収まる溝も切っておきます。
この板を接着剤をつけて組みつけ、クランプで圧着します。
すり減ってしまった側面には、その形に合わせて堅木を切り出し、
曲線にすり合わせして、
接着剤をつけてクランプで圧着して一晩養生しておきます。
余ったところを削り落とし、平面を出してイボタロウを擦り込み、側面板の再生が完了しました。

この個所の摩耗が全ての不具合の起点になっています。まず摺動が引っかかるようになり、奥の板が摺動時に本体の内側に干渉して、割れてしまい、さらに摺動が渋くなり、しまいには収納物が引っ掛かるようになって不具合が拡大してきた。こんな順で不具合は連鎖してきたと推測できます。不具合の原点に対策することで、今後の予防策にもなっています。
仕上げに、前板の細かに傷をタッチアップして、
前面全体を塗装で仕上げます。
完成しました。引き出しと扉が本体に収まりました。向こう10年は愛用に応えてくれるはずです。