思い出の詰まった食器棚を、一回り小さくしたいというご相談を受けました。

縦横1.8mほどの大きさで、ガラスの扉が印象的な食器棚です。上下2段に分割できる構造になっています。

メールで何度かやり取りをして、この上下2段に分割できる食器棚の、上の段の半分だけ活かして、飾り棚にリメイクする方針が決まりました。

ご承認いただいたダウンサイズ計画のスケッチです。細かなところは内部の構造によって多少変更することにはなりそうですが、まずは目指すゴールをご了解いただいて作業にかかります。
工房に引き上げてきた食器棚の上の段です。部品どり用に下の段も一緒に引き上げました。ですが今回のリメイク作業のほとんどはこの上の段が対象になります。
一通り全体をクリーニングして、ガラス扉の取り外しにかかります。
取り外した1枚目のガラス扉です。
4枚全てを取り外します。
ガラス扉を外した本体です。手前から真ん中の仕切り板までを活かし、オリジナルの棚板がそのまま使えるようにリメイクします。
扉の丁番に使われていた木ビスと棚板をのせるダボ金物を保管しておきます
ガラス扉の内側を念入りにクリーニングします。
小さなお子様がいらっしゃるお宅にお納めするので、取り外した4枚の内、再活用する2枚のガラスに飛散防止フィルムを貼りました。

いよいよ本体の加工に入ります。
再利用する右側の側面版を切り出します。表面の塗装が傷まないよう、カットするラインぎりぎりでマスキングして手鋸で慎重にカットしていきます。
鋸の刃はば0.7mm、カットラインは1mmです。残り0.3mmでカット面を平滑に仕上げて接着します。
底板はダボで接合されていたので、あてぎをして叩いて取り外します。背板もステープラーで固定されていたので、極力再利用する部材を傷めないよう慎重に分解します。内側の塗装面もそのまま活かす計画なので、不要なところに鋸の刃が当たらないように慎重かつ正確に鋸の刃を動かします。
側面板が外れました。側面板の小口の装飾は、仕上がりを左右する大切な個所なので、角を当てたり塗装面を痛めてしまわないよう、養生をして取り扱います。
本体側です。ダボを残して綺麗に取り外せました。
次に天板を中央の仕切り板のところまで切り取ります。マスキングテープを駆使した手鋸の慎重な作業が続きます
天板は仕上がると目の高さになるので、切り張りした跡が目立たないよう、鍵の手状にカットしています。
次に側面板をL字型に加工します。正面の装飾された小口はそのまま活しつつ、間仕切り板の厚み分を削除するには、こうするしかありません。オリジナルの塗装面を痛めないようにL字型にカットする難しい加工です。まずルーターで正確な位置に溝を切り、溝の底の面を側面板の幅いっぱいまで広げていく方法をとりました。
側面版はパネル状に作られてるので、切り取る分の深さまで丸鋸で幾筋も切り込みを入れ、
鑿や鉋で不要な部分を削り落とします。手間のかかる方法ですが、綺麗な仕上がりを目指すには最も確実な方法です。コツコツ根気よく作業を進めます。
一方で中仕切り板のほうも接合の準備に入ります。右側の薄い方の板が中仕切り板です。これをL字型にカットした側面版で覆う計画です。
中仕切り板の外側の塗装面を剥がし、接着剤がしっかり効くように下地処理します。
L字型に加工し終わった側面板に接着剤をつけ、
中仕切り板に接着して、接着剤が完全に乾くまでテープで固定します。
廻縁も同時に接着し、力のかかる個所は、クランプで圧着しておきます。
廻縁も圧着します。特にサンメントの角の留め加工部分は正確に接合し、テープで固定します。
天板の縁回しの接合部を下から見た写真です。後で角は丸めるのですがピン角になるよう正確な角度でしっかり着いていないと後で先端を丸めてもルーズな形になってしまいます。
下側の廻しぶちの接合も完了しました。この工程のサンメントは、全て部品どり用の下の段から調達しています。今回オリジナルの塗装をそのまま活かす方針で作業を進めているので、塗装面を傷つけないよう、常に養生をしながら作業を進めます。
正面側の接合線が最小になるように、後ろ側は必要に応じて隙間を開けて接合し、後から埋め木をすることで隙間を塞ぎました。
次にベース部分の加工をします。角は留め加工、R状に削り落とした個所はやすりを使って仕上げます。この部材も元は下の段の巾木部分です。木目や色味が完全に一致しているので、傷つけないよう気はつかいますがその分仕上がりは完ぺきになるはずです。
土台の木工作業がほぼ完了しました。完全に固まるまで養生しておきます。
ベースの角の内側には三角形の部材を接着し、必要な強度を確保しています。
接着材の硬化後、加工して生地が露出した部分を着色して本体に色合わせします。
ベースの角の部分です、まだピン角になっていますが、
R状に削り出して整形し、着色します。
接着剤が完全に乾燥し、養生テープを剥がしたところです。内側も外側も、計画通りオリジナルの塗装面を活かすことができたので、全く違和感のない仕上がりになりました。。
次いで細部の調整に入ります。オリジナルは外周部が濃く仕上げてある「サンバースト塗装」が施されていたため、接合して新たに隣り合わせになった個所に、はっきりとした濃淡の差があります。これを解消していきます。
不要な個所をマスキングで養生して、
必要な部位のみ露出させ、スプレーで着色して、濃淡差をなくします。
これで木工・塗装作業が完了です。
最後にガラス扉を付けて完成です。
オリジナルの雰囲気を活かすため手数はかかりましたが、加工した跡が一切見られない素敵なガラス棚が完成しました。元の塗装を傷めないよう、手のかかる手順で根気よく作業したため、艶消しのシックで落ち着いた大人の印象に仕上がりました。
思い出の詰まった食器棚は、小ぶりでおしゃれなガラス棚になって甦りました。