楢のテーブルの塗り直しを依頼されました。20年以上使い続けたご家族の思い出の詰まったテーブルとのこと。最近天板が「べたつく」ようになったことがご依頼の直接の動機だそうです。近く内装のリニーアル工事が完成するので、この際テーブルも綺麗にしよう、気になる「べたつき」を無くし、汚れも落としてほしいとのご要望です。

天板の補修は実は結構難しい作業です。何度やってもいつも途中で難題にぶち当たります。そんなことを繰り返すうち、最近になって大切な肝の部分が見えてきたように感じています。今回の紹介ではこの肝の部分をしっかりお伝えしたいと思います。

工房に引き上げてきたところです。輸送中に傷つかないよう、簡単に養生してあります。
細かなところをよく観察します。傷も全てを取り去ることが必ずしもいいわけではありません。一つ一つの傷の背景にはご家族の思い出があるわけですから。
全体の構造はしっかりしています。楔を締めれば全く問題なく使い続けられます。
汚れが露出した木肌に入り込んでいます。これは取り去ります
天板の角は塗装が擦り切れて木地が露出しています、色味を合わせて仕上げます
角にくぼみがあります。傷そのものを埋めることはせず、汚れとささくれを取り除きなだらで均質な表面に仕上げます
脚部の汚れは取り去ります。楔周辺の埃や汚れも取り去り、しっかり楔を締め直します。
脚の先端にも木部にしみ込んだ黒ずみがあります。これも完全に取り去ります。以上の細かな作業方針を立て、いよいよ作業開です。

最初にしっかりした作業方針を決めることが大切です。もちろん作業中にいろいろ問題が出てきて軌道修正することがほとんどですが、特に天板の塗装補修などの難易度の高い作業では目標を定めておくことで、工程ごとの到達点を意識でき、手戻りの少ない美しい仕上りにすることができます。

ご依頼のきっかけとなった「べたつき」に関しては原因はテーブルの上で行う焼き肉などで食用油が飛び、それが長年の蓄積していることです。食用油は硬化することがないのでいつまでも「べたべた」しています。それがごく薄い層になって長い時間かけて何層も蓄積しているので一般的な洗剤だけでは取れないしつこい汚れになっているのです。かといって物理的にむりやりこすり取ろうとすると天板を傷つけてしまいますし、強力な洗剤では表面の塗装まで痛めてしまいます。

まず最初は全体のクリーニングです。ですがこれは単なる清掃ではありません。塗装の下地処理を兼ねていますし、最近では、もしかしたらこの作業が一番大切なものかもしれないと思うようになりました。微細な研磨スポンジを使い、少しづつ汚れを落としていきます。
場所によってはスチールウールを使い、汚れを落としきります。
天板の広い面を均質に仕上げるのには神経を使います。周囲との違和感がないか、乾燥させては状態を確認して進めます。この段階では乾いた時に均質でマットな状態になればOKです。もちろん手直ししたことが局所的に目立つようではダメなので、水で濡らして仕上がりの色味をチェックしつつ、OKな状態になるまで、慎重な作業を何度も繰り返すことになります。この工程の仕上がりの時には、手触りも滑らかですべすべになっています。
当然のこととして、下地の露出した個所は乾くと白く目立ってきます。ここへの対処が腕の見せどころです。
擦れている天板や足回りのエッジもしかりです。
サンデイングシーラーの塗布とサンディングを数回繰り返したところです。
上記をさらに数回繰り返したところです。シーラーにも多少の色付け効果がありますし、徐々に濡れ色になってくるので、下地処理の時に水で濡らしてみた状態に近づいてきます。
ですが角の塗装が擦り切れていた個所はまだ色味が回復していません。
そこで次の手を打ちます。問題の個所を透明のシート(なんでもいいです)でカバーしてトレースし、
不定形のマスキングシートをつくり、吹き付け塗料で微妙な色付けをします。シートの内側の端は少し浮いているようにします、そうすることで塗料の乗っている所と乗らないところの境をぼかしているのです。ですからシートはすこし皺になっているようなものの方が好都合なのです。

色付け完了です。光の当たり方にもよりますが、ほぼ完ぺきに色合わせが完了しています。
同じことを他の個所でも実施ます。
違う角度から見た手を入れた個所です。
違う角度から見た手を入れた他の個所です。
色味の調整が終わり最終仕上げの直前に撮った写真です。
表面を保護する目的のコーテイングなので木目の魅力は少し減りますが、こうしておかないと美しい状態を維持できないので致し方ないです。完成です。