高さ1.8mの姿見

3代続く美容院様から大きな姿見の鏡のクリーニングと木枠再塗装のご依頼がありました。

実物を拝見しにうかがうと、裏板を剥がした状態になっていて、木枠の中で鏡が動きます。これは輸送に細心の注意が必要です。梱包に工夫して工房に運び込みました。

毛布で養生した作業台に寝かせました。荷造りテープの裏角にスペーサーをかませ、鏡を木枠に押し付けるようにして輸送中の振動に対処したのです。
子細に見てみると、木枠は堅木の山桜、土台も同じ材の塊を3つ束ねて作られた強固で重たいものです。
波型のつなぎ釘でがっちり連結してあります。これだけの太さなので乾燥して少し平行四辺形に変形しているようです。

姿見全体が少しぐらつく印象だった理由もこれでわかりました。これだけの太さの無垢材が一切乾燥割れせずに、半世紀近く機能してきたことに驚きます。この姿見は先々代から受け継がれ、着付などで活躍してきたとのお話を、ご依頼者様からうかがぃましたが、この時点で、今回の作業は外から見えない地味で評価されない仕事になると覚悟しました。評価されなくてもさらにあと数10年しっかり機能し続けられるようにしようと心に決めました。

土台の上には10センチほどの立ち上がりがあって、その上部に鏡がはめ込まれています。
鏡の裏側には横桟が2本渡してありましたが、
横桟は桐製、釘でかなり乱雑な留め様です。
下側の横桟に至っては明らかに桐の端材の流用です。
留め方も釘一本、しかも材が割れてしまっています。これではこの横桟、構造的な力は全くありません。鏡が動いたことも頷けます。
まず木枠と土台、立ち上がり面をクリーニングします。
立ち上がり面を外したところ、鏡の荷重はこの細い木枠一本で半世紀近く支えられてきたのですね。山桜の強靭さに改めて驚きです。
外した小壁とその裏板です。
取外してしっかり汚れを落とした立ち上がり面に、今まで汚れで全く気が付かなかった文字が現れました。
3代前に開店を記念して、ここに書かれた会社からこの美容院に贈られた鏡であることが、漆の金文字で記されています。
横桟はしっかりしたものに交換しました。ビスで固定しクランプで圧着しています。
横桟は山桜の木枠を貫通したビスで固定し、
ビスの頭は、
山桜材のダボを作り埋め込みました。
クリーニングした裏板を貼り、裏板周囲の釘穴を修復して裏側は完成です。
土台と小壁も再塗装してはめ込み完成しました。
変形した土台の外周が床にしっかり踏ん張れるよう、薄い板材を新たにつけています。最終的にはこの材全面に硬質フェルトを貼り、床を傷つけることなく滑らせて移動できるようにして完成させました。

今回の仕事は予想通り外から見えない地味な仕事に終始しました。この重くてデリケートな姿見の搬送をしっかりサポートしてくれた助手に感謝してこの稿終わりにします。この鏡に映った自分の姿の変貌に目を見張り、着付けしてもらっている新成人に、時代を生き抜いたこの鏡が映し出す世界が、輝き続けますよう。