Robin dayデザインのPolo Chairの座面を6センチ下げるご依頼がありました。
脚の先にはプラスチックのキャップがはめ込まれています。
脚は2mm厚のスチールパイプ製です。
脚先にはめ込まれたキャップ。先端が巧妙な形で、斜めに安定して接地します。

体格の違いもありますが、屋内で靴を脱ぐ文化の日本では、椅子の座面が高すぎることは常に起きる問題です。特に海外で作られた輸入の椅子の場合、これは顕著に現れます。今回Robin dayがデザインしたPolo Chairの座面を、6センチ下げるご依頼を受けました、素材は得意の木ではありませんが、ご要望にお応えしたので、その事例をご紹介します。

工房に運び込んでダンボール箱から出します。
傷つかないよう、丁寧に梱包されています。
カットする脚だけ梱包を外します。
まずカットする寸法を割り出します。座面を6センチ下げるために、パイプ脚を切り詰める寸法を割り出します。

割り出した切り詰め寸法は70mmでした。前後の脚が同じ角度で床に接するデザインなので、4本とも同じ寸法を切り詰めます、これだけ寸法が短くなると前後に不安定になるかとも懸念されましたが、完成後確認したところ、その不安は全く杞憂だったことがわかりました。もともとのデザインが安定へのマージンが大きくとられていたこと。たぶんそれは、子供向けの展開も予想して、同じ角度のまま脚を短くしても安定性を損なうことがない様にデザインされていたのだと想像します。改めて世界を相手にするデザイナーの力量が見て取れました。こんなに許容範囲が広くしてあっても、なおかつ美しいのです。恐るべしです。

カットする位置に養生テープを巻き付けます。テープの端で切断するので、脚の養生にもなります。
コンターマシンのテーブル外周に養生テープを貼ります。こうしておけば切断作業中に脚の塗装を傷めることはありません。
カットした断面です。カット後の面取りも済んでいます。
錆を防ぐため黒の艶消しラッカーをスプレーします。こうしておけばキャップとのわずかな隙間から金属色が見えることもありません。
塗料が乾けばカット完了です。外周、内周の面取りも完璧です。
カットした脚先にキャップを差し込めば作業完了です。

今回、この作業を通して、工業生産品として量産される椅子のデザインには、手作りの木製の椅子とはまた違った味わいがあることに気づかされました。一見冷たい印象を受けますが、全体のプロポーションや、例えば安定性や、その後のシリーズ展開など、全体として満たしている機能の中に、原寸のダミーを何度も作り直して、練り上げられたものがなければ、到達できるはずもない巧妙なバランスが潜んでいます。また細部の収まりには考え抜かれた製造責任を全うする気概が感じられます。また、座面の成型用金型やパイプの曲げ型など、大量量産のための投資は、木製の治具づくりとはけた違いになり、必然的にその領域の専門家の力量が見て取れることになります。一方で、人の感性に訴える部分、色や形や手触りについても、それにふさわしい優れた才能に委託しているのです。自然由来の資源は枯渇していきます。そうなった時どんな道を進むべきなのか、近代以降の短い時間とはいえ、多くの人の賛同を受けているもののなかに、そのヒントが眠っています。