イームズのチェアはダイニングセットの長期修理の際に貸し出すため、数点所有していますし、修理したことはあるものの、ラウンジチェアの修理をお声がけいただいたのはを初めての事でした。日頃からレザークラフトも楽しんでいるので、是非やらせていただきたいと申し入れ、オットマンも一緒に工房にお引き取りしてきました。
チャールズ・イームズは椅子のデザイナーとして有名ですが、イームズを初めて知ったのは、実は椅子や家具ではなく「パワーズ・オブ・テン」という映像作品でした。博覧会のIBM館のためにイームズがつくったこの映像は、今でも多くのクリエイターに影響を与える名作で、視点を変えることなくズームアウトとズームインをすることで、広大な宇宙の果てと微細な原子の世界までをごく短時間で経験できる画期的なモノでした。始めて目にした時の衝撃は今でも鮮明です。
これは固定するポイントと移動する視野の設定次第で、世界を描ききることができると宣言したも同然で、クリエイティブな視点は何物にも束縛されないという思想を世界に広めたのです。今ではグーグルアースで、居ながらにして世界を旅できる、そんな夢に向かって皆が前進するきっかけを作てくれたのだと思っています。
ラウンジチェアに座ってみると、リクライニングの軸位置と、自らの重心位置に絶妙なずれがあり、ごくシンプルなバネ機構による反発と、身体の沈み込み具合が、他で味わったことのないモノで、座った瞬間、一瞬浮遊しているような不思議な体験ができます。機会があったら是非一度ご体験ください、イームズが開いてくれた領域に足を踏み入れてみてください。