何度も手掛けてきたフリッツハンセンのスーパー楕円テーブルの天板の塗り直しのご依頼がありました。今回手がけたのは、足が木製で天板が拡張できるスーパー楕円テーブルで、このタイプを手掛けるのは初めてです。

早速工房に持ち込み、クリーニングから作業を開始します。
30年以上使われてきた天板には食器の跡や塗装の割れ、部分剥離が起きています。
食器の跡は、熱により塗膜が白化してできる場合がほとんどで、熱によるダメージが塗装膜を通り越して下地の木部に及んでいることもあります。
塗膜の割れは、塗料の経年劣化により起こります。下地の木部まで亀裂が入り、突板を浮かせてしまっている恐れがある場合は、特別な下処理をしてから作業に入ります。
天板を拡張した際に挟み込むピースは2枚ありほとんど使われてこなかったようです。
若干の汚れと保管中に生じたとみられる黴を除去してクリーニングすれば製造当時の姿に戻ります。
脚は珍しい木製タイプです。金属製の脚は何度も手がけましたが、同じデザインコンセプトで部材固有の弾力を利用してしならせて美しい形にし、定位置にはめ込む構造は鉄製でも木製でも同じです。
脚の先端部分です。この4本のパーツを集結させたところは、しっかり締結されていないと脚として機能しなくなります。経年で緩んでしまい、ガムテープで応急処置して使い続けられてきたようです。
縛られていない脚にもこの部分に隙間が生じています。
ダボで互いに繋ぎあい、接着してあるようです。隙間からダボが見えています。
縛られていない脚にもこの部分に隙間が生じています。
黒く塗装された締結金具も色あせていますが、この金属板の四隅に設けられた穴に木製パーツのピンが挟み込まれる構造です。木製の脚が開こうとする力を利用してピンが抜けない仕組みです。テーブルの荷重もこのピンを押し込む方向に働く理にかなったデザインです。
脚先にできた隙間を押し広げ、
4つに分解します。
後から手が入らなくなる内側を入念にクリーニングし
施着剤を入れ木製クランプで再締結します。
締結完了です。この部分がしっかり固定されていないと、上部のピンが固定金具にしっかりと挟まらなくなってしまいます。
次に天板の裏側のクリーニングと補修をします。
金属製のレールがスライドして伸縮することで、天板の拡張機能がもたらされる仕組みです。
中央で2つに分かれる天板の接合部にはピンとホゾが仕込まれていてしっかりつながっていました。さらにそこに食べ物の残滓などが入り込み、固まってしまっています。木製の楔を用意してここをこじ開けます。
天板の小口を傷めないよう少しづつ楔を打ち込み開いていきます。
無事開ききることが出来ました。3段式のレールが数10年ぶりに伸び、最大まで伸ばすとこんなに大きくなります。
スライドベアリングが要所に仕込まれたレールは非常に精密かつスムーズに伸縮します。
左右のレールはこの丸パイプで繋がれていて、二本の丸パイプと天板裏にビス止めされているだけですが、しっかり機能します。
天板同士の位置合わせのピンと丸い形状のホゾとホゾ穴が加工されています。
サンドペーパーで面を出し、塗装の下処理をします。
研磨した面にクリヤー塗料を刷毛塗りし、研磨し塗装を3回繰り返します。
天板裏にフリッツハンセンの刻印があります。1988年の製造のようです。
次に脚を塗装しておきます。4本の部材で象られた内側もよく見えるところなのでクリヤー塗装をしっかり施します。
色あせた締結金具も黒の艶消し塗装をして仕上げておきます。
次はいよいよ、天板の再塗装です。まず塗装の割れている所に、アイロンで硬化を促しながら接着剤を押し込み、乾燥後サンデイングペーパーを当てます。40番から始め、80番、120番、240番と番手を上げてサンデイングしました。
古い塗装は全て削り落とし、
木目に沿ってサンデイングブロックを使った手作業をすることで、下地が見える寸前まで削り落とします。
砥の粉を擦り込み、完全に乾燥させてから余分な砥の粉を手作業で丁寧にこすり落とした段階です。
突板本来の木目が綺麗に現れています。
突板表面にまで熱によるダメージがあった場所は、あえて姑息な着色などで隠すことはせず、この素材そのものの持つ本来の風合いを生かした仕上にしました。
シミのように見える変色した場所もありますが、これはこのテーブルの歴史を示すものとして受け入れていただけるものと判断しました。
サンデイングシーラーとクリヤー塗装による仕上コートを計5回繰り返して仕上げました。
光線の具合ではこのようにも写ってしまいますが、手触りの滑らかな平滑な仕上がりです。

今回再塗装した天板は、これまでに手がけた中でも最も傷みが激しい部類に入ります。割れた塗膜は亀裂ごとに反り上がり、水が浸み込む状態でしたし、食器跡も多数あり、熱のダメージによる白化が下地の突板まで達しているところもありました。ご満足いただける結果になるか不安もあり、メラミン化粧板を貼って仕上げる方をお勧めしたのですが、家族で使い続けた歴史も味として受け入れたいのご要望で、再塗装を選択されました。

その結果は写真でご覧いただいた通り、取りきれない傷みもありましたし、ほぼ製造当時の仕上がりのままの拡張用の天板と、再塗装をした天板には明らかな色味の差が出たのですが、それでもなお仕上がりにご満足いただくことが出来ました。

これまで何度も繰り返してきたことで得ることのできたスーパー楕円テーブル再塗装のノウハウが、各工程ごとの正しい判断につながり良い結果を得ることが出来たのだと思います。こうした経験を積ませていただいた皆様に改めて感謝しています、ありがとうございました。