背もたれが外れた座椅子を直してほしいとのご依頼をいただきました。

総無垢の欅製の座卓4脚。
戸建て住宅の完成に合わせて作られたオリジナルのモノだそうで、表面の塗装もだいぶ傷んでいます。
うち1脚は、前端のパーツが外れてしまっています。ビスケットジョイナーで接合されていたようです。
接合ホゾが最も緩んでいたものに関しては、背もたれも分解します。
まず前板の再接合から作業を開始します。
ゴム系接着剤で修理した痕跡があり、不要な接着剤の残滓が残っています。超硬刃のついた特殊鉋で残滓をこそぎ落とします。
部材を作業台にしっかり固定して作業を進めます。
部材の木肌が出てきたら完了です。
ビスケットジョイナーの溝まわりも綺麗にします。
溝底は幅の最も狭いノミを使って
残滓を取り除きました。
この断面形状だと、そのままでは力が逃げてしまい圧着ができません。いろいろ考えていて閃き、専用の治具を作りました。
ツーバイフォー材をカットしただけの治具ですが、
ポニークランプと併用すると、驚くほどの効果を上げてくれました。
プレスした力が全て接着面に垂直にかかっています。完璧な再接合が出来ました。

美しい木目を見ていて、泰然と考えていたら繋がるべきところに繋がり、瞬時に答えが降りてきました。それは作業を進めてみると完ぺきな対策だったことが後からわかる、不思議な体験でした。

つぎに乾燥による割れが入った1脚を処置します。同じ欅のブロックから、
亀裂と同じ幅の楔を削り出し、
接着剤をつけて打ち込みます。
計画通り打ち込んで、余長を粗々落としたところです。
最後は座面と面一になるよう、
慎重に整形して、割れの補修完了です。
次に背もたれの再接続に入ります。
背もたれの根元のホゾ穴は、無垢の家や機材の接合部に掘ってありました。残念ながらこれでは材の乾燥が進むと割れが生じてくる場所にホゾ穴を切ったことになり、緩むのは当然です。
ひとまずブロック材の再接合と背もたれの接合を同時に行い、
両方ともにしっかりした圧をかけて2日ほど養生しておきます。
再接合完了です。
ほぞ穴に平行に発生していた割れも無くなり、
背もたれの緩みもひとまず収まりました。
座面側から見ても、
木目の交錯が美しい素敵な座椅子が蘇りました。
この重厚な座椅子が4脚並んだ作業所
さて、発注していた10mm+の欅の丸棒が届きました。
ホゾを貫通した
10mm径の穴を開け、
欅の丸棒を叩き込んで貫通させます。かなり強い力で打ち込んでいることがつぶれた頭でわかります。
余長を切り落とし補強の完了です。
表から
裏まで貫通させたこの丸棒の閂で、力のかかる接合部をがっちり固定したわけです。
表面の木目に沿ってサンデイングして仕上げに入ります。
欅の美しい木目が浮き出てきました。
クリヤーの吹き付け塗装をして、
この木目の美しさを定着させて完成です。
最後に底面、の脚の裏の処置をします。サンデイングで汚れを落とし、
硬質フェルトを切り出して
貼って仕上げます。
こうしておけば床を傷つけることもありませんし、床の上を滑らせて移動することも可能です。
全ての作業が完了しました。
これだけ木目の美しい座卓が
4脚も並ぶと何故だか嬉しくてしかたなく、つい鼻歌を歌ってしまいます。